第3話 メニューコマンド
先程までの戦いの熱が、まるで嘘のように静まり返っている。
草原に吹く風が心地いい、ようやく落ち着いてきた。
俺は、ハンドアックスを渡してきたドワーフにお礼を言う。
「先程はありがとうございました、自分は田中次郎と言います」
「???」
やっぱり言葉が通じない、ドワーフに限った事か?
「??」
あー、そうか! 異世界なんだから日本語が通じるとは言えないか。困ったな~・・・
異世界言語とかそういうスキルがあればなー、う~ん・・・
そういやさっき頭の中に声が聞こえたな、シナリオクリアがどうとか。
あれこれ考えているとドワーフの一人からコップを渡された、水みたいな液体がなみなみと注がれている。
「何ですか? これは飲んでいいのですか」
ドワーフはグイッといけ、みたいなジェスチャーをしている。飲んでいいらしい。
しかし、匂いで分かる、鼻にスーっとくる匂い、これはお酒の類だ。
俺はあまりお酒は飲まないクチなのだが、まあちびちび飲むか。
お酒を一口飲んで味わう、めっちゃアルコール度数高い、少しずつ飲む。
「???」
ドワーフのおっさんが笑う、どうやら戦いの勝利の酒らしい。
{メニューコマンドが解放されました}
ん? なんだ、また頭の中に女性の声が聞こえたぞ。メニューコマンドって聞こえた、まるでゲームみたいだな。
ちょっと試してみるか、メニューコマンドと思ってみる。
すると目の前にゲームなんかでよく見るメニューコマンド画面みたいなのが表示された。
「なんだこれ、すごいな。どういう仕掛けになっているんだ? 」
空中に文字が表示されている、ゲームみたいだ。
アイテム、スキル、ステータス、・・・この3つがメニューコマンドらしい。
なんか年甲斐も無くわくわくしてきた、ゲームは若い頃やり込んできたからな。
まずは今の自分がどうなのか調べないと、(ステータス)と念じる。
LV1
HP2 MP0
力 3
体力 1
すばやさ 1
器用さ 5
魔力 0
幸運 2
ユニークスキル メニューコマンド
BP1 SP1
・・・は? なにこのステータスの低さ、・・・こんなのでどうやって異世界渡り歩けって言うのさ。
HP2って・・・弱パンチ2発でやられちゃうじゃないか、魔力0って魔法の才能無しって事?
力と器用さが少しだけあったからあのゴブリンを倒せたのかな?
それにしても低い、今どきTRPGだってもう少しあるぞ。
SPはたぶんスキルポイントだ、BPは、なんだろう、ボーナスポイント?
・・・1SP使ってなにか出来ないかな、試してみるか。(スキル)と思ってみる。
すると目の前に習得可能っぽいスキル一覧が表示された。
「お~、すごいな~、結構あるな」
「???」
「あ、すいません、独り言です」
「??」
そうか、俺にしかこの表示は見えないのだろう、気を付けねば。
それにしても色々あるな、戦闘系からスカウト系まで、魔法スキルは無いか、まあMP0だし。
しかし、俺が欲しいスキルは異世界言語だ、よく探してみる・・・あった! 異世界語、必要SP1・・・
よし! スキル異世界語を習得したぞ、これで会話が出来るはずだ。ドワーフに話し掛けてみよう。
「あの~すいません」
俺が話し掛けると、ドワーフの一人がこちらを向いて返事をした。
「・・・なんだ?おめーさん喋れるのか、みょーちくりんな事しか言わないからどーしよーかと思ったぞ」
よかった、どうやら言葉が通じるようになったみたいだ。やはりスキルを取ったからか?
「はい、ちょっと色々ありまして、一応会話できるみたいです」
「なら話がはえー、おまえさんどっから来た、突然現れてびっくりしたぞ」
ふむ、日本からと答えても多分解らないだろうな、ここは曖昧にお茶を濁しとくか。
「・・・え~と、遠い所からです」
「遠いってあれか、セコンド大陸からでも来たのか? ガッハッハッ」
「・・・今、セコンド大陸って言いましたか! 」
俺はその言葉に咄嗟に反応し、前屈みに乗り出し聞いた。
「な、なんでぃ急に、ここはミニッツ大陸だぜ? 」
・・・なんて事だ、セコンド大陸にミニッツ大陸だって? ・・・って事はこの世界は俺が若い頃やり込んだゲーム「ラングサーガ」に似た異世界なのか、ゲームに登場した大陸名だからな。
「ところでお前さん」
「な、何ですか」
「背中の傷はでーじょうぶか? 」
あ、忘れてた、どうしよう、回復職のヒーラーとかいないかな、なんか矢を受けた所が突っ張ってきた。
「すみません、傷薬なんかはありますか、出来れば治療をしてもらいたいのですが、」
「回復薬ならあるぜ、200G《ゴルド》な、」
ゴルド? それがこの世界の通貨か、ゲーム「ラングサーガ」と同じだな。
「えーと、金取るんですか、すいません無一文です」
俺は何も持って無い。さっき渡されたハンドアックスだけだ。
「しょうがねえな~、ひとつ貨しな、ほれっ」
ドワーフの一人が回復薬を渡してきた、有り難い。
「ありがとうございます」
さっそく回復薬を飲んでみる、すると体が一瞬光ったと思ったら痛みが無くなった、傷口も塞がったみたいだ。
「すごい効能ですねこの薬は、200Gとは高いんでしょうか」
「ん? こんなもん10や20は用意しとくもんだ」
「なんだ、金の事気にしてんのか。ひとつ貨しでいいって」
ドワーフ達は酒盛りをしながら気分よく話していた。なんだ、意外と優しいところがあるんだな。
「ありがとうございます、助かりました」
さてと、体も治ったし・・・どうしようかな・・・
「みなさんはこれからどちらへ? 」
「おう、おれらの傭兵団はこれからバルト要塞に行くのよ」
バルト要塞か、・・・って事はここはミニッツ大陸のバーミンカム王国のあたりかな。
ゲーム「ラングサーガ」やり込んでてよかった、ゲーム知識でなんとかやってみよう。
「そうですか、自分は南にあるサラミスの街を目指します、お世話になりました」
「そーか、気ーつけろよな、そのハンドアックスはくれてやるよ、大事に使ってくれや」
「はい、ありがとうございます、大事にします」
こうして武器を手にしてみると怖くなるが、ここは異世界だ、ゲームではない。何があるか分からない、最低限の装備は必要だろう。
武器を腰に提げ、ドワーフの戦士達と別れ、サラミスの街を目指す。
「レベル1だからな、慎重にいかないと」
俺のゲーム知識が確かなら、サラミスの街までそんなに遠くない筈だ。
いよいよ一人で冒険か・・・怖い様な、わくわくする様な・・・
おじさん、ちょっと頑張ってみるか。
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