おじさんは冒険者になる

月見ひろっさん

第1章

第1話 プロローグ

「腹減ったな、コンビニに行って何か食い物でも買っていくか」


バイト帰り、歩いて数分の道を行くとコンビニ店がある筈だ。なのに・・・


「あれ? なんだこの店、コンビニは? 」


いつも行くコンビニ店は無く、代わりに喫茶店みたいな一軒の建物があった。


「店・・・なのかな、ちょっと覗いていこうかな」


コンビニにしてはやけに外壁や店の中が白い、営業中の雰囲気はしているけど。


「こんにちは」


カランコロン、と扉を開けると鈴の音が聞こえた、やっぱり喫茶店か?


店に入るとやはり喫茶店みたいな店内だった、他のお客さんはいない様だ、カウンターから店の人っぽい店員さんが出てきて対応してくれた。


「いらっしゃいませ、どうぞ中へ」


店員さんに中に入る様、促される。


「ここは喫茶店ですか? 看板とかなかったもので・・・」


「うーん・・・喫茶店に見えるんですね、まあこっちもそれっぽくしたのでいいんですけど」


女性店員はとても綺麗な声だった。


「さあ、まずは座って下さい、・・・それで、異世界に行きたいんですよね」


「はい? 今なんと? 」


俺は椅子に腰掛けながら、女性店員の言葉に聞き返した。


「ですから、異世界に行きたいんですよね」


「いやいや、ここ喫茶店じゃないんですか? 」


「違いますよ、ここは異世界斡旋所ですけど」


「異世界斡旋所? ・・・すみませんちょっとわからないです」


何を言っているんだこの人? 自分の聞き間違いか?


「あれーおかしいですねー、ここは適性のある人しか見えないし入れない筈なんですけど」


いきなり異世界とか言われてもな・・・、そういう本とかマンガは読んだことあるし好きだけどな。俺だってライトノベルぐらい読んだ事あるぞ。おじさんだからってあなどってもらっては困る。


「あの~、異世界斡旋所って何がどうなんですか? 」


俺の質問に、女性店員が手を一合い叩き、食いついた。


「あ、興味あります?コホン、それではいくつか質問します。正直に答えて下さいね」


なんだ? 急に女性店員がまじめな感じになったぞ。


「ちょ、ちょっと待って下さい!何ですか急に」


「いいから答えて下さい」


「は、はあ・・・」


急な展開でおじさんついていけないよ。


「それでは質問します、お名前は?」


「田中次郎です」


「お歳は?」


「40代ですけど」


「ご結婚は?」


「してません」


「女性を一人以上幸せにした事がありますか?」


「・・・ありません」


「親孝行した事がありますか?」


「あまりした事ないかも・・・」


「お仕事は?」


「アルバイトです・・・」


「特技は?」


「・・・ゲームぐらいです」


「・・・・・・はぁ~~、ほんとにこんな昼行灯ひるあんどんみたいな人で大丈夫かしら・・・」


何だ、溜息なんか付いちゃって、何か気に障るような事でも言ったかな?


「あの~ちょっといいですか、何ですかこれ、なんか申し訳なくなってきちゃったんですけど」


「お気になさらず、ただの適性選別ですので、・・・だけど、優しさだけは普通にある様ですね」


何か知らんが、色々聞かれて自分を曝け出したみたいでちょっと恥ずかしい。


「ちょっと待って下さい、異世界に行くなんて言ってませんよね」


「いいからいいから、ちょっと試すだけですから」


ちょっとだけ試すという文言に、ろくな目に遭わなかった過去が蘇る。だまされないぞ。


「試すって何を? そもそも異世界転移するなら魔法陣とかそういう演出とかは? 」


女性店員は無視して何やら右手を自分の頭の上に掲げ、ポーズを取った。


「それではいきますよ、私が指をパチンとやると異世界転移します、いいですか? 」


な!? なんだと! そんな簡単にやってしまって大丈夫なのか? 随分お気楽にやってくれるな。


「待って、ちょっと待って、どうせなら剣と魔法のファンタジーRPG風の異世界に・・・」


「わかってますって、それじゃあ、えいっパチンと、あ~そうそう異世界、大変でしょうけど頑張って下さいね」


やはりそうきたか、そういうのは早く言ってほしい。




 気がつくと、辺り一面が草原のど真ん中に俺は居た、正確に言うとゴブリンっぽいモンスターの集団とドワーフっぽい人の戦闘集団が相対して睨み合っているど真ん中だ。




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