第5話 とあるSNSアカウントの投稿

 昌弘は最近SNSでとあるアカウントの投稿を閲覧するのが日課になっている。それはとあるカップルが運営しているアカウントなのだが、その投稿内容というのが二人の所謂夜の営みの写真や動画であった。


「よくこんなプライベートの極みみたいなもん誰に見られるか分からんのにネットに投稿するよな」


 と昌弘は呆れ、内心馬鹿にしつつも、それはそれとしてアップされた写真や動画のご相伴には預かっていた。


 そんな出歯亀生活を送っていたある日、昌弘はその日の投稿に違和感を覚えた。いつもは写真や動画と共に扇情的かつ、こう言っては何だがあまり知性を感じられないような文章が載っているのだが、この日はただ「5」とのみ記されていた。アップされている動画自体はいつもと変わらず二人の性行為を映したものであったので、昌弘はやや引っ掛かりを覚えつつもあまり気にすることは無かった。


 次の日、そのアカウントを覗くと、新しい投稿があった。文章はただ一文字、「4」のみ。動画はいつもと同じ内容であった。


「これ、カウントダウンじゃないか?だとしたら0になった時、何が起こるんだ……?」


 昌弘の思った通り、次の日も、その次の日も、「3」「2」とカウントダウンは進んでいった。突如始まったカウントダウンにやや気味の悪さを覚えつつも、最後にどうなるかを見届けたいという好奇心が勝った。


 そしてカウントダウンが0になる日、昌弘が例のアカウントを覗きに行くと、このような文章と動画のURLが投稿されていた。


『ここまで見てくれてありがとう!投稿はこれで最後になります!二人にとって一番特別な瞬間を撮ったので是非見てくださいね!』


「あー、これアレか、最後の最後に入籍の瞬間とか投稿して終わるタイプのアカウントか」


 昌弘はそう思いつつも、とは言えここまで来たのだから最後まで見てやるかと、URLをクリックした。


 表示された動画の再生時間は約40分。えらく長い。再生が始まると、例のカップルが食卓で談笑しながら豪勢な食事を囲んでいた。会話の内容も本当に他愛のないもので、聞いていて特に面白いものでもなかった。


「この内容があと30分も続くのかよ。キツいな」


 昌弘はだんだん動画への興味が薄れていったが、取り敢えず最後まで再生するため、彼は動画を垂れ流しておくことにした。しばらくすると二人は食事を終え、テーブルの上を片付けたかと思うと、椅子だけを残してテーブルそのものも部屋の奥へどかしてしまった。そして彼氏の方が何かを画面の外から持って来た。それは二本の黄色い縄であった。それらを彼氏は天井の照明器具の根本に括りつけ、先端を輪っか状に結んだ。


昌弘は硬直した状態で画面から目が離せなくなっていた。沸き起こる嫌な予感が的中しないことを強く祈りながらも、動画はその予感に向かってまっしぐらに進んでいった。二人は椅子に上り、縄に首を通したかと思うと、本当に幸せそうな笑顔でカメラに向かって手を振った。そして、勢い良く椅子から飛び降りた。先程まで笑顔だった二人の顔は瞬く間に苦悶に歪み、両者ジタバタと激しく暴れたものの、数分で静かになった。動画の最後の10分間はただぶら下がる二人が映っているのみだった。


 しばらく茫然としていた昌弘はふと我に返り、PCを閉じた。次の日、彼は大学を休んだ。TVを見ていると、カップルの心中のニュースが流れてきた。映された写真は例の二人であった。昌弘の脳裏に昨日の動画での二人の死に顔が過り、彼はTVを消してベッドに潜り込んだ。


 昌弘はショックを数日引き摺ったものの、段々と元の精神状態を取り戻していった。が、それと同時にある一つの疑問が彼の中に芽生えた。


「一体誰があの動画をSNSに投稿したんだ……?」


 昌弘はそれが霊的なものであることを祈りつつ、例のアカウントのブックマークを外した。生きている人間の仕業と考える方が余程恐ろしい。それ以来、彼はSNSの巡回をやめた。


(終わり)

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