サプライズ面会
鈴音に案内されて、弦真は家とは真逆の方向にある病院へと向かっていた。
舞雪が入院している病院は、市内でも有数の大病院で、弦真の生まれた病院でもある。
学校から最寄りの駅までは自転車で行き、駅から電車に乗り、そこから更にバスに乗り換えてと、とても遠い道のりではあるものの、弦真は嫌がらずに鈴音についてきていた。
「ねえ、弦真君」
鈴音はバスに乗ってしばらくすると、弦真に話しかけた。
「なんですか?」
弦真は、ちらりと鈴音を見て答えた。
「今こうして病院へ向かってる訳だけど、舞雪に来るな、って断られたらどうするつもり?」
鈴音は上着の襟のところに顔を埋めながら問う。
「意地でも小花衣と話をするつもりです。どうしても謝っておきたくて」
弦真は窓の外を見ながらそう答えた。
そっか、と言うと、鈴音はそれ以降口を開かなかった。
しばらくして、バスは目的の病院へ着いた。
二人はバスから降りると、病院の正面玄関へと周り、病院の中へと入っていく。
あらかじめ面会の予約を鈴音がとっていたため、二人は舞雪の病室へと案内された。
「面会時間は、三十分となっておりますので、ご了承ください」
看護師はそう言い残して、戻っていった。
「じゃあ、私はここで待ってるから中に行きな?弦真くん」
鈴音は病室の前に設けられた椅子へ腰を下ろしながら言った。
弦真は鈴音に頷くと、病室の扉をノックした。
「はーい」
舞雪の返事がして、鈴音が人差し指を扉の方へ向けて、行けの意を示した。
「やっほー、す…」
舞雪は開いた口を途中噤んだ。
「ゆみなみくん…?」
舞雪は目を白黒させながら、弦真を見た。
「すまない、小花衣。鈴音さんからここにいるって聞いて、付いて来させてもらった」
舞雪は弦真にここに来た訳を説明されて納得したものの、次の瞬間思いっきり布団を持ち上げて頭から被った。
「もう、なんできたのぉ…」
弦真は舞雪の呟きを聞いて、軽くショックを受けた。
「え、ダメだった…?」
舞雪は布団から目だけを出して言った。。
「弓波くんが来てくれたこと自体は嬉しいんだけど、アポ的なの欲しかったかなぁ。こんな格好だから恥ずかしいし…」
舞雪は消え入るような声で言って、病室の外を睨みつけた。
「鈴音、ちょっと集合!」
「いやーサプライズ成功って感じ?」
鈴音が戯けるように言いながら病室の中へと入ってきた。
「もう、事前にアポくらいとってからにしてよ」
舞雪がぶーたれると、鈴音は舞雪を指差した。
「先に言っておいたら、ユキ絶対拒否ったでしょ」
当の舞雪は鈴音から目を逸らした。
「まあ、そうかもだけどさ…」
今まで黙っていた弦真が、舞雪に問いかけた。
「ところで小花衣、具合の方は大丈夫なのか?それと、俺のせいでこうなっちゃってるんだとしたらほんとごめん!」
弦真は頭を下げながら、そう尋ねた。
「具合自体は大丈夫だよ」
舞雪はそう言って、弦真に頭を上げるように言った。
「私の具合が悪くなっちゃったのは、何も弓波くんのせいじゃないよ。だから気にしないで」
そう諭すように言った次の瞬間、舞雪は唇の端を持ち上げた。
「それはそうと、弓波くん私のことは『小花衣』って苗字呼びなのに、鈴音のことは『鈴音さん』って名前で呼んじゃうんだぁ。へー、そうなんだー」
舞雪は楽しそうに言うも、目は全く笑っていなかった。
「いや、その。鈴音さんの苗字を知る前に名前を知って、そのまま成り行きで、というか…」
弦真がそう説明するように言うも、舞雪は聞く耳を持たない。
「言い訳は聞きたくない!私のことも名前で呼びなさい!不公平でしょ!」
舞雪は弦真に矢継ぎ早に言う。
「だめかな?弦真くん」
舞雪がどこか媚びるようにそう言うと、弦真は小さくため息を着いた。
「その調子なら具合は大丈夫そうだな、舞雪」
弦真の台詞を聞き、舞雪は大きく笑った。
「そういうとこだぞ、弦真くん」
舞雪は笑って、鈴音を手招きする。
「鈴音は弦真くんと今どんな関係になってるか報告しなさい!」
舞雪はにっこりと笑みを浮かべながら言った。
「そんなんじゃないわよ!」
鈴音が笑いながら舞雪のベッドへ歩み寄っていった。
「本当にそんなんじゃないからな?」
弦真はそう言いながら、鈴音の後を追ってベットに近づいていった。
「面会時間あと十分です」
鈴音が舞雪に話そうとした次の瞬間、看護師がドアを開けて、言いはなった。
「だそうですので、一・五倍速でお願い!」
舞雪は、てへっと笑って言った。
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