第87話 覚えていない

午後2時を過ぎたところになっていた。


二実達はとある場所へと向かっていた。


結局二実達は何の情報も得る事ができなかった。


ただ得体のしれない恐怖が増しただけであった。


晴南が二実に尋ねた。


「彩乃さんは大丈夫だったんですか?」


二実が晴南に言った。


「ええ気を失ってただけみたい。」


晴南が二実に言った。


「良かった。」


勇雄が晴南に言った。


「吉崎警部補が彼女を自宅まで送ってくれている。」


二実が三緒に言った。


「けど結局、彩乃(あやの)さんに何もしてあげられなかったわね。」


三緒が二実に言った。


「これといって新しい情報を得る事もできなかったしね。」


拓也が二実に尋ねた。


「さっきのは何だったんでしょうか?」


二実が拓也に言った。


「分からないけどあれだけの浮遊霊達が一気に消えるなんてありえないわ。」


晃太が二実に尋ねた。


「それじゃあさっき彩乃(あやの)さんが九木礼に戻って、ここにいてはダメって言ってたのは?」


二実が晃太に言った。


「それも分からないわ。」


三緒が二実に言った。


「最近本当に分からない事だらけね。何がどうなってるのかしら?」


晴南が二実に尋ねた。


「ところで今からどこに行くんですか?」


二実が晴南に言った。


「明洋の実家に行くのよ。数日前に寿恵(すえ)さんから明洋の遺留品を借りてたのよ、それを返しにいくの。」


晃太が勇雄に言った。


「そして寿恵(すえ)さんに明洋さんが明井田大規模火災に関与しているのを伝えに行く。違いますか勇雄さん?」


勇雄が晃太に言った。


「晃太君、君はなかなか鋭いな。」


明洋が明井田大規模火災に関与している事は明洋の両親にはまだ伝えていなかった。


すると三緒が勇雄に言った。


「勇雄さんお願いします。寿恵さんには明洋が疑われている事を黙っておいてもらえませんか?」


勇雄が三緒に尋ねた。


「三緒君?その理由を聞いていいかね?」


三緒が勇雄に言った。


「寿恵さん、明洋が犯人なんて知ったら絶対に耐えられないと思うからです。寿恵さん明洋がいなくなってから体調を崩してるようでした。よく眠れてなさそうでした。」


勇雄が三緒に言った。


「残酷な真実を伝えなくてはならないからな。」


勇雄が三緒に言った。


「そうだな分かった。まだ明洋君が犯人だと正式に決定したわけではなし今日はその話は控えておこう。それでいいかな?」


三緒が勇雄に言った。


「ありがとうございます。」


二実達は明洋の実家へと到着したのだった。


二実が明洋の実家のインターホンを鳴らした。


すると寿恵が玄関から姿を現した。


「あら二実ちゃんそれにみんなも久しぶり。元気にしてた??」


そこにはとても明るい顔の寿恵の姿があった。


二実は笑顔の寿恵に少し困惑しながら尋ねた。


「今日は元気なんですね?」


すると訝しげに寿恵が言った。


「えっ??いつも元気だと思うけど??」


二実が寿恵に尋ねた。


「いやだいぶ明るくなられたと思うんですけど?もう立ち直れたんですか?」


寿恵が二実に尋ねた。


「立ち直る????えっ??何から立ち直るの?」


二実が寿恵に言った。


「何って??明洋(あきひろ)が行方不明になってるじゃないですか。」


寿恵が二実に尋ねた。


「明洋(あきひろ)??誰の事?」


二実が寿恵に言った。


「寿恵さんの息子さんです。私は息子さんの明洋君と仲良くしてましたよね??」


寿恵が二実にきょとんとした顔で言った。


「私に息子なんていないわよ?」


二実は訳が分からない様子で寿恵に言った。


「寿恵さんどうされたんですか?」


寿恵は困った顔で二実に言った。


「いやどうもしてないんだけど。それより二実ちゃん今日はどうしたの?」


二実が寿恵に言った。


「遺品をお返しにきました。明洋の双眼鏡です。」


寿恵が二実に尋ねた。


「こんな高価そうな双眼鏡を貰っちゃっていいの?」


二実が寿恵に言った。


「私のじゃなくて明洋の物なんです。それを返しにきました。」


寿恵が二実に尋ねた。


「さっきから二実ちゃん何言ってるの?」


二実が寿恵に言った。


「寿恵さん本当に忘れちゃったんですか??明洋(あきひろ)って名前の息子さんがいたんですよ!!」


寿恵が二実に言った。


「ええ二実ちゃん、私には息子なんていないわよ?もしいたら忘れるわけないでしょ??」


二実が寿恵に言った。


「いたんですよ!!明洋って大学生の息子さん!!」


寿恵が二実に言った。


「分かった、ドッキリか何かね。もう二実ちゃんも三緒ちゃんも人が悪いわね。」


寿恵が二実に尋ねた。


「それで二実ちゃん後ろの人は?」


二実が寿恵に言った。


「九木礼警察署の人です。今日はいろいろと立て込んでたんで。」


すると勇雄が寿恵に向かって一礼をした。


寿恵も勇雄にお辞儀をした。


寿恵が二実に言った。


「へえーそうなの、二実ちゃんはいろんな人とお知り合いなのね。」


寿恵が言った。


「そうだせっかく来たんだから上がってってよ。みなさんもどうぞ??」


二実達は明洋の家の中へと通された。


すると廊下には中年の男性が立っていた。


二実がその男性に言った。


「あっ!!哲郎さん??」


この中年の男性は明洋の父親で白焼哲郎(しらやきてつろう)という名前だった。


哲郎(てつろう)が二実に言った。


「おや??二実ちゃんと三緒ちゃんだったかな?いらっしゃい??」


哲郎が寿恵に尋ねた。


「そちらの方々は??」


寿恵が哲郎に言った。


「二実ちゃんのお知り合いなんですって、せっかくだからみんな家にあがってもらったわ。」


哲郎が言った。


「そうなのか?せまい家ですがゆっくりしていってください。」


すると二実が哲郎に尋ねた。


「あのう??哲郎さんは明洋を知ってますよね??」


哲郎も何の事か分からない様子で二実に言った。


「えっ??明洋って誰の事だ?」


二実が哲郎に言った。


「哲郎さんの息子さんです。覚えてませんか??」


哲郎が二実に言った。


「俺達には子供はいないよ。」


すると寿恵が哲郎に言った。


「あなたここは笑わなきゃダメですよ?」


哲郎が寿恵に言った。


「どういう事だ?」


寿恵が哲郎に言った。


「きっと若い人たちの間で流行ってる遊びみたいなものなのよ。」


哲郎が寿恵に言った。


「なんだそうなのか。」


哲郎と寿恵は大声で笑った。


「はっはっはっ??」


二実達は明洋の家の中のリビングへと通された。


この状況に全員が困惑していた。


二実が三緒に尋ねた。


「一体どういう事よ??寿恵さんも哲郎さんもなんで明洋の事忘れちゃってるの??」


三緒が二実に言った。


「私も分からないわ。」


拓也が三緒に尋ねた。


「二人とも満子さんみたいに現実逃避してるんじゃ?」


すると勇雄が拓也に言った。


「いや、あれはたぶん現実逃避ではないと思う。本当に明洋君の記憶がない、そんな感じだったな。」


すると三緒が困惑した様子で二実に尋ねた。


「ねえ??本当に明洋君が存在しなかったって事はないよね?」


二実が三緒に言った。


「そんな事あるわけないでしょ。って言いたいけど、なんか私も自信がなくなってきたわ。」


二実が三緒に言った。


「なら確かめに行きましょうか。」


三緒が二実に言った。


「確かめるって?」


二実が三緒に尋ねた。


「2階に明洋の部屋があるでしょう??」


三緒が二実に言った。


「そっかもし本当に明洋君が存在しないなら2階の明洋君の部屋も存在しないって事ね。」


二実が三緒に言った。


「そういう事。」


二実が大きな声で言った。


「寿恵さん、二階を見せてもらっていいですか?」


奥の部屋から寿恵の声が響いた。


「いいわよいいわよ。好きなだけ見て回ってくれて。」


二実が大きな声で言った。


「ありがとうございます。」


二実がみんなに言った。


「みんな上に行こう。」

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