第86話 彷徨う者達

晴南達は二実を先頭にがれきが散乱している道を慎重に進んでいった。


すると二実の忠告通りに誰ものとも分からない声がどこからともなく響いてきた。


「おーい、返事をしてくれ!!」


「すいません!!」


「聞こえて!!聞こえて!!」


晴南達は二実の忠告通りに聞こえてくる声を無視しながら静かに進んでいった。


すると二実がガクとよろけて倒れそうになった。


後続のみんなが心配そうに見ていたが、二実はすぐに体勢を戻すと再び進み始めた。


そして二実が左手を上げた。


明洋が見つかった合図だった。


全員が無言でうなづくと二実を先頭にして再び進み始めた。


晴南達が無言で進んでいる最中にもどこからともなく声が聞こえてきた。


「おーい!!おーい!!」


「聞こえてないのか?聞こえてるんだろう??」


晴南達はそれを無視して進み続けた。


しばらくすると声が聞こえなくなった。


そして最後尾を歩いていた三緒が二実に言った。


「二実ここならいいんじゃない?」


二実も周囲を確認した後で三緒に言った。


「そうねここにしましょうか?」


三緒が二実に尋ねた。


「二実??大丈夫??」


二実が三緒に言った。


「ごめん大丈夫よ、明洋の幽霊を見つけちゃったらやっぱりショックだったのよ。明洋の幽霊を探しに来たんだけど、やっぱり心のどこかではここにいてほしくないって思ってたから。でももう大丈夫だから、始めましょう。」


二実が三緒に言った。


「それじゃあ意識を落とすから、三緒あとは宜しく頼むわよ。」


三緒がうなづきながら二実に言った。


「ええ任せて。」


二実は意識を虚ろにさせて降霊を行おうとした。


だが二実の目論見は外れあろうことか彩乃の体に明洋が降霊してしまった。


明洋が降霊した事で彩乃の意識はすぐに落ちてしまった。


少しして彩乃が口を開いた。


「二実か??」


彩乃らしからぬ低い声でまるで男性の声のようであった。


三緒が二実に尋ねた。


「ねえ??どうするの??」


二実が三緒に言った。


「もうこのまま続けるしかないでしょ。」


二実が降霊した彩乃に呼びかけてみた。


「明洋なの??」


彩乃が低い声で言った。


「ああ俺だ。どうして無視してたんだ??ずっと呼んでたのに??俺の呼びかけに無視しなくてもいいだろう?」


二実が彩乃に言った。


「ごめんなさい、なかなか気づく事ができなくて??ねえ明洋?6月11日の事を覚えてる?」


彩乃が低い声で言った。


「何を言ってるんだ??まだ6月10日だろ??さっきサークルが終わったばかりだろ?」


二実と三緒は顔を見合した後で頷いた。


二実が降霊した彩乃に言った。


「それじゃあこの後なにするつもりなの??」


彩乃が低い声で言った。


「この後??何もしないよ。土日でクリアしてないゲームでもするつもりだ。」


二実が降霊した彩乃に言った。


「北海道に戻るつもりはないの?」


彩乃が低い声で言った。


「戻らないよ、金がないんだ。母さんにもさっき連絡したしな。昨日二実にも教えなかったか。」


二実が降霊した彩乃に言った。


「ねえ何かやましい事しようとしてないよね??」


彩乃が低い声で言った。


「えっ??別に何もしてないよ。」


二実が彩乃に言った。


「例えばビルに放火するとか?」


彩乃が低い声で言った。


「俺にそんな事をする度胸があると思うか??包丁を持っただけでビビるんだぞ?そんなことできる訳ないだろう。」


すると彩乃は少し声のトーンをかえていった。


「なあ二実や三緒はそんなに大きかったか?」


彩乃が低い声で困惑気味に言った。


「違う??俺の背が低くなってる。なんだこりゃ??俺の体じゃない??」


すると彩乃が怒り気味に言った。


「おい??二実ここはどこだ??」


二人は顔を見合わせた。


彩乃が低い声で言った。


「教えてくれ??ここはどこなんだ?」


二実が降霊した彩乃に言った。


「明井田駅前よ???」


彩乃が低い声で言った。


「はあ明井田駅前??何言ってるんだ??このがれきの山があの明井田駅???もっと面白い冗談にしてくれよ??」


二実が降霊した彩乃に言った。


「明洋、落ち着いて聞いてね。あなたは死んでしまったのよ!!」


彩乃が低い声で言った。


「なんだそりゃ??俺を驚かそうとしてもだめだ。そんなの冗談にきまってるもんな。」


三緒が彩乃に言った。


「明洋君、残念だけど二実の言ってる事は本当だよ。明洋君がここにいたって事は明洋君は死んでると思う。明洋君は明井田大規模火災で死んでしまったの。」


彩乃が低い声で言った。


「三緒まで何言ってるんだ?だから冗談だって丸わかりだよ。」


二実も三緒も死んでしまった明洋に対してどう言葉を続ければいいか分からなかった。


二実も三緒も黙ってしまった。


彩乃が低い声で言った。


「おい!!なんで黙るんだよ、はやく冗談だって言ってくれよ。不安になるだろ。」


彩乃が低い声で言った。


「俺は大学の授業を終えてサークルに顔を出してそのままアパートに帰ったんだ!!それから眠くなって眠ったんだ!!それで目を覚ましたらみんな俺の事を無視して、一体俺がなにしたっていうんだ??」


彩乃が低い声で言った。


「嘘だ。俺は死んでない、二実なんでそんなひどい事を言うんだ。」


彩乃が低い声で言った。


「おい?本当に俺は死んじまったのか!!もうこの世にいないって言うのか!!」


二実が彩乃に言った。


「明洋、お願いだから落ち着いて!!」


彩乃が低い声で言った。


「教えてくれ!!俺の体はどこにあるだ??嫌だ!!!死んでなんかいない!!!嘘だと言ってくれ!!嫌だ!!!嫌だ!!!」


彩乃が大声で言った。


「死んでなんかいない!!!!」


すると三緒が二実が大きな声で言った。


「まずい!!他の浮遊霊達に気づかれた!!!ここに集まってくる!!!」


二実が大きな声で言った。


「まずい??みんな一旦彩乃さんから離れて!!」


だがそうではなかった。


すぐに別の事態が起こっている事に二実は気がついた。


「どういう事??浮遊霊達が私たちに見向きもせずに通り過ぎていく??」


二実達の周囲にはどこからともなく聞こえてくる悲鳴がこだましていた。


「うああ!!!」


「うあああ!!!」


すると彩乃が低い声で絶叫した。


「嫌だー!!!行きたくない!!!嫌だー!!あっちは嫌だ!!!助けて!!助けてくれ!!!!」


二実が彩乃に尋ねた。


「どうしたのー???明洋??」


彩乃が低い声で絶叫した。


「あそこだけは嫌だ!!!嫌だー!!嫌だ!!嫌だ!!嫌だ!!」


三緒が二実に言った。


「おかしいわ。浮遊霊達がみんな慌てふためいてる。」


彩乃が低い声で絶叫が続く。


「行きたくない!!!行きたくない!!!嫌だ!!嫌だ!!嫌だ!!!」


周囲にはすさまじい悲鳴がこだまし続けた。


そして突然静かになった。


あれだけの悲鳴が嘘のように晴南達の周囲は静まりかえっていた。


三緒が言った。


「もう浮遊霊達がどこにもいないわ。」


二実が三緒に言った。


「明洋もいない。浮遊霊達はどこのに行っちゃったの?」


二実が三緒に言った。


「一体何が起こったの??まるきっり訳が分からない。」


三緒が二実に言った。


「それより今は彩乃さんを。」


二実が三緒に言った。


「そうね。」


二実が彩乃の体を揺らしながら呼びかけた。


「彩乃さん!!彩乃さん!!大丈夫ですか??」


彩乃さんは意識を取り戻すと恐ろしいものを見たようにガタガタ震えていた。


二実が彩乃に呼びかけた。


「大丈夫ですか??彩乃さん??」


だが彩乃は何も答えなかった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


二実が彩乃に再び呼びかけた。


「彩乃さん??しっかりしてください!!」


だが彩乃は何も答えなかった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・れた。」


すると二実は彩乃が何か言おうとしている事に気がついた。


二実が彩乃に聞き返した。


「えっ??」


二実が大声で言った。


「行かれた!!みんな連れていかれた!!!」


二実が彩乃に尋ねた。


「連れていかれた??どういう事ですか??」


だが彩乃は二実の質問には答えずに大声で言った。


「ここにいた子達みんな連れていかれた!!!はるか彼方にすごい力で引きずり込まれていった!!みんなすごく嫌がってた。」


彩乃が大声で言った。


「あの時私の中にたくさんの子達が中に入ってきたの。連れていかれたくなくて、私の中に逃げてきたの!!でもどうすることもできなくて!!!みんな連れていかれた!!!」


彩乃が大声で言った。


「九木礼に戻って!!お願い!!!ここにいてはダメ!!!!」


彩乃はそういうと再び気絶してしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る