第63話 葬儀

6月22日午前11時過ぎ、ここは明井田市内にある葬儀会館である。


葬儀会館では柚羽の葬儀が執り行われていた。


全ての人が喪服を着ていて暗い顔をしていた。


晴南達の姿もここにあった。


美咲が大きな声で言った。


「柚羽!!なんで死んじゃったのよ!!!」


晴南が大きな声で言った。


「柚羽!!一緒に成人式に出ようって約束してたじゃない!!!」


麻衣子が呟いた。


「ねえ柚羽??こんなに早く死んじゃってどうするのよ?まだやりたい事いっぱいあったでしょ?」


冬湖が泣きながら言った。


「柚羽さん、本当にかわいそう。」


由香が泣きながら言った。


「本当にかわいそうです。」


優斗が言った。


「柚羽はなんで死ななければいけなかったのかな?」


健太からの連絡は柚羽が死んだ事を知らせる物だった。


柚羽の訃報を聞いた時は皆が力を失って涙を流していた。


そして柚羽の葬儀に全員で参列しているのだった。


輝かしい未来を奪われた少女の悲しい死を、大人になる事すらできなかった一人の中学生の少女の死を皆が直視していた。


柚羽が死んだ。この厳しい現実が晴南達を突き付けていた。


なぜ彼女は死ななければならなかったのか?


柚羽を死に追いやったものは何なのか?


私達にしてあげられることはなかったのだろうか?


晴南達はこれまでの柚羽との出来事を思い出しながら柚羽の死を悼んでいた。


すると突然会場内で女性が大声を出した。


「柚羽!!柚羽!!いつまで寝てるつもりなの??早く起きてきなさい!!みんな集まってるのよ?早く起き上がってきてみなさんにご挨拶なさい!!」


隣にいた男性がその女性に言った。


「満子(みつこ)?落ち着くんだ。」


満子と言われた女性は男性に構わずに遺影に向けて言った。


「ほら柚羽??お父さんも早く起きなさいだって!!」


この女性と男性は健太と柚羽の両親だった。


女性の方が大柳(おおやなぎ)満子(みつこ)で男性の方が大柳(おおやなぎ)誠二郎(せいじろう)であった。


誠二郎(せいじろう)が満子(みつこ)に言った。


「いいか満子(みつこ)、落ち着いて聞いてくれ。柚羽は明井田火災で死んでしまったんだ。」


満子が誠二郎に構わずに遺影に向かって言った。


「柚羽?お父さんたっら変な事を言うのよ??柚羽が死んだっていうの?そんな事ある訳ないのにね。昔から冗談が下手なんだから!!」


誠二郎(せいじろう)が大声で満子(みつこ)に言った。


「満子(みつこ)いい加減にしろ!!あの子は!!柚羽は死んだんだ!!」


満子(みつこ)が大声で誠二郎(せいじろう)に言った。


「あなた!!変な事を言わないで!!柚羽が死ぬ訳ないでしょ!!」


誠二郎が満子に言った。


「俺だって気持ちは一緒だ。柚羽が死んでしまったなんて今でも信じられないさ!」


すると満子(みつこ)は突然キョロキョロし始めた。


そして誠二郎(せいじろう)に言った。


「あなた??ここはどこ?」


誠二郎(せいじろう)が満子(みつこ)に言った。


「明井田の葬儀会館にいるんだ。」


満子が誠二郎に言った。


「なんでこんな所にいるの?」


誠二郎が満子に言った。


「柚羽の葬儀の為にここに来たんだ。」


満子が睨みつけながら誠二郎に言った。


「あなた??柚羽を殺さないでってあれほど言ったでしょ??柚羽はとってもいい子だったのに?なんで平然とあの子を殺す事ができたの?」


誠二郎が慌てた様子で満子に言った。


「おい、誤解される言い方はやめろ。」


満子が大きな声で誠二郎に言った。


「何が誤解よ!!柚羽を殺したのはあなたじゃないの?私は反対したでしょ?柚羽を殺したくせに偉そうにしないで!!」


誠二郎が大声で満子に言った。


「ふざけるな!!柚羽を弔いもせずに放かっておけとでも言いたいのか!!それこそあの子が浮かばれないだろう!!!」


満子が誠二郎を睨みつけながら大声で言った。


「近寄らないで!!この人殺し!!」


二人の近くに座っていた葬儀社の人が慌てて仲裁に入り満子は葬儀の会場より出ていった。


葬儀会場は騒然となった。


すると誠二郎が大声で参列者達に言った。


「申し訳ありません。一旦葬儀を中止致します。落ち着きましたら再開致しますので少しお待ちください。」


参列者達は再開を待っていた。


だがなかなか葬儀は再開されなかった。


それどころか更に誠二郎や葬儀社の人が慌ただしくしていた。


誠二郎が葬儀社の人に尋ねた。


「どうだ?見つかったか?」


葬儀社の人が誠二郎に言った。


「いえいません。どうやら会場付近にはいないようです。」


そして誠二郎と葬儀社の人が話し合いを始めていた。


他の参列者達もこの慌ただしさに気がついてざわつきだしていた。


しばらくして誠二郎が大きな声で参列者達に言った。


「喪主(もしゅ)を務めます大柳(おおやなぎ)誠二郎(せいじろう)です。本日はご多忙の中柚羽の葬儀に参列して頂きありがとうございました。ですが皆様、申し訳ございません。誠に勝手ながら本日の葬儀を中止とさせて頂きます。今後の葬儀の予定は追ってご連絡致します。なお頂いたご香典は全て返却させて頂きます。ご多忙の中時間を割いて頂いたのにこのような事になり申し訳ございませんでした。」


だがこれを聞いた参列者達は誠二郎に詰め寄るのだった。


「一体どういう事だ?葬儀が中止になるなんて聞いた事がないぞ。」


「満子さんはあんたを人殺しだと言っていたが???まさか事実なんじゃないだろうな。」


「柚羽ちゃんを殺したなんて信じられない!!!なんてひどい人なの!!」


誠二郎が慌ててみんなに言った。


「皆さん誤解です!!ちゃんと事情をご説明致します。」


晴南達はこの様子を後方から見ていた。


晴南が麻衣子に尋ねた。


「ねえ私達も誠二郎さんの所に行く?」


麻衣子が晴南に言った。


「誠二郎さん今は立て込んでるみたいだしもう少し後にしましょう?」


すると健太が晴南達の所にやって来た。


晴南がやってきた健太に尋ねた。


「ちょうど良かったわ健太!ねえ何があったの?」


健太が晴南に言った。


「はい、それを先輩達に話そうと思ってこっちに来たんです。でもここだと騒がしいので駐車場で話しませんか?」


晴南達は健太に促されて葬儀会館の外にある駐車場へと移動した。


駐車場の空いている場所に晴南達はやってきた。


健太が晴南達に言った。


「今日は姉さんの為にわざわざ集まってもらったのにすいませんでした。」


麻衣子が健太に言った。


「健太君、そんな事気にしなくていいから。」


晴南が健太に尋ねた。


「それで健太?何があったの?さっき満子さん、柚羽を殺したのはあなたでしょ!とか不穏な事言ってたし?」


健太がみんなに言った。


「水内先輩、勘違いしないでほしいんですけど、言葉通りの意味じゃありません。父さんが柚羽姉さんを殺したって事じゃないんです。」


晴南が健太に尋ねた。


「それじゃあどういう事?」


健太がみんなに言った。


「最近母さんは柚羽姉さんが行方不明になって精神的にまいってたんです。」


麻衣子が健太に言った。


「そりゃまいるよね。」


冬湖が健太に言った。


「そうですね。満子さんかなりやつれてましたし。」


健太がみんなに言った。


「それで柚羽姉さんの葬儀をするかどうかで父さんと母さんが大喧嘩をしたんです。」


晴南が健太に尋ねた。


「えっ??なんで葬儀をするかどうかで喧嘩になるの?」


健太がみんなに言った。


「警察の人が柚羽姉さんの遺体を見つけてくれたんです。それで僕と父さんは何とか柚羽姉さんの死を受け入れる事ができました。だけど母さんはまだ現実として受け入れる事ができないでいるんです。そうでなくても柚羽姉さんが行方不明になってから母さんは精神的に相当まいってました。それで母さんは柚羽姉さんの死の知らせを聞いてから、柚羽姉さんが生きてるように振舞い始めたんです。」


晃太が健太に言った。


「そういえば満子さんさっき様子がおかしかったな。」


健太がみんなに言った。


「母さんはそんな状態だから父さんは母さんには相談せずに葬儀の日程を決めてきたんです。後からそれを知った母さんが剣幕に怒ったんです。柚羽は生きてるの。葬儀なんかする必要ないでしょって。」


晃太が健太に言った。


「なるほど誠二郎(せいじろう)さんが柚羽の葬式を執り行おうとして柚羽の死を認めたくない満子(みつこ)さんがそれに怒って猛反対したわけか。」


麻衣子が健太に言った。


「それでご両親が喧嘩してたのね。」


晴南が健太に尋ねた。


「ねえ健太はどう思ってるの?」


健太が晴南に言った。


「僕は父さんに賛成してます。柚羽姉さんが死んでしまったなんて今でも信じられないし嘘であってほしいと思ってる。でもこのまま弔いもしないなんて柚羽姉さんが可哀そうだから。柚羽姉さんだけでも弔ってあげたいし。」


麻衣子が健太に尋ねた。


「ねえ健太君?柚羽だけでもってどういう事?」


健太が麻衣子に言った。


「ごめん。あんまりこういう事は言わない方がいいと思うんだけど、実はクラスの友達が何人も行方不明になってるんです。」


優斗が健太に尋ねた。


「何人もって事は、一人や二人じゃないんだね?」


健太が優斗に言った。


「坂倉先輩の言う通りです。うちの2年3組だけで15人が行方不明になってます。」


晃太が健太に尋ねた。


「健太のクラスは確か30人クラスだったよな?」


健太が晃太に言った。


「そうです。」


麻衣子が驚いた様子で言った。


「それじゃあ??クラスの半分の子が行方不明になってるの?」


優斗がみんなに言った。


「やっぱり二実さんが言ってた話は本当だったんだね。」


晃太が健太に尋ねた。


「じゃあ葬儀が中止になったのは?」


健太が晃太に言った。


「母さんが柚羽姉さんの亡骸を持ってどこかに行っちゃったんです。」


みんなが驚いて言った。


「ええっ???」


拓也が健太に言った。


「それで葬儀が中止になったのか。」


優斗が健太に言った。


「確かにそれじゃあ葬儀はできないね。」


健太がみんなに言った。


「はい、父さんが葬儀社の人と話し合って中止にしたらしいです。」


麻衣子が健太に尋ねた。


「満子(みつこ)さんどこに行ったの??」


健太が麻衣子に言った。


「分からないけど、この後父さんと一緒に心当たりの場所を探して見るつもりです。」


晴南が健太に言った。


「そういう事ね、事情は分かったわ。」


健太がすまなさそうにみんなに言った。


「みんなわざわざ来てくれたのに本当にごめん。」


麻衣子が健太に言った。


「気にしないで。」


すると晴南がみんなに言った。


「ねえ私達も一緒に満子さんを探さない?」


すると美咲が晴南に言った。


「えっー!!満子さん柚羽の遺体を抱えて逃げてるんでしょ?私達が満子さんを見つけたらどう声を掛ければいいわけ??」


晃太が晴南に言った。


「そうだな子猫探しとはわけが違うぞ。複雑な状況みたいだし今回は止めといたいいと思うぞ。」


その後、皆が反対したので晴南が折れてそのまま帰路につくことになった。


健太を見送った晴南達は葬儀会館近くにあるバス停に向かっていた。


少しして晴南達はバス停に到着した。


バスの到着時間までしばらく待つ事になった。


すると麻衣子がみんなに尋ねた。


「ねえみんなはどう思う?」


晴南が麻衣子に言った。


「何?いきなり?」


麻衣子が晴南に言った。


「柚羽の葬式の事、葬式をしなければ柚羽は死んだ事にはならないのかな?なんかさ柚羽の葬式が中止になって私ちょっとほっとしてるんだよね。柚羽が死ななくて良かったって思ってる。」


晃太が麻衣子に言った。


「葬式をしなかったからって柚羽が戻ってくる訳じゃないぞ。」


麻衣子が晃太に言った。


「うん晃太君、それは分かってるんだけど、満子(みつこ)さんの気持ちも分かるんだよね。柚羽がまだどこかにいて少し経ったらまた私達の所にひょこり現れるんじゃないかって思っちゃうんだよ。」


冬湖が麻衣子に言った。


「私もそう思います。柚羽さんがひょっこり現れてくれたらいいなって思います。」


晃太が麻衣子に言った。


「そう思いたい気持ちも分かるが、俺は誠二郎(せいじろう)さんの言う通りちゃんと葬式をして柚羽を弔ってやるべきだと思う。」


麻衣子が晃太に言った。


「まあねそれが正しい事だっていうのは私も理解してるよ。でもね晃太君?頭では分かってても、心が受け付けない事ってあるでしょ?」


冬湖が麻衣子に言った。


「そうですよね。そういう時ってありますよね。」


すると晴南が大きな声でみんなに言った。


「ねえせっかく明井田に来たんだからどこかに寄っていきましょうよ?」


麻衣子が驚いた様子で晴南に聞き返した。


「えっ??葬式の帰りに遊んでかえるつもり??」


晴南が麻衣子に言った。


「満子(みつこ)さん探しができなかったからその代わりよ。」


麻衣子が晴南に言った。


「何よそれ?さすがに不謹慎でしょ。」


晴南が麻衣子に言った。


「だってみんな気分が落ち込んでるでしょ?暗い顔してるわ。だったら少しでも気を紛らわせた方がいいんじゃない?」


拓也が麻衣子に言った。


「俺はいいと思うぞ?どんな時だって気分が塞いでる時は気分転換した方がいい。」


優斗がみんなに言った。


「晴南のいう通り、今は気分転換をした方がいいかもしれないね。」


麻衣子が晴南に言った。


「そうだね、分かった。」


晃太が晴南に尋ねた。


「だがどこに寄っていくんだ?明井田の中心部は焼け野原になってるんだぞ?」


晴南が晃太に言った。


「それは考えてないわ!」


晃太が晴南に言った。


「考えてないのか?」


晴南が晃太に言った。


「その通りよ!!」


晃太が晴南に尋ねた。


「なあ晴南?どこに行くかも決めてないのに遊びに行こうって提案したのか?」


晴南が晃太に言った。


「そうだけど?何か問題あった?」


晃太がため息をつきながら晴南に言った。


「いや別にいい。」


すると美咲が晴南に言った。


「それなら晴南?あそこにいきましょうよ?私達になじみの店に。」


晴南が美咲に聞き返した。


「なじみの店?」


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