第62話 分からない
それからしばらくの間、全員が黙り込んでいた。
あまりの不気味さにみんな黙り込んでしまったのだ。
この状況にみんなが恐怖を感じていた。
そして最初にその沈黙を破ったのは麻衣子だった。
「とりあえず集めた情報を整理してみませんか?」
美咲が麻衣子に言った。
「ええっ?そんなことしなくてもいいでしょ?」
麻衣子が美咲に言った。
「あっごめん美咲。美咲はそういう話は嫌いだったわよね。」
二実が美咲に言った。
「なら美咲ちゃん? 西の間にスイーツを用意しておいたから先に食べててくれてもいいよ?」
美咲が二実に言った。
「えっ?もしかしてベリエのスイーツですか?」
二実が美咲に言った。
「ううん、今回はベルガのチーズケーキを用意させてもらったわ。」
美咲が目を輝かせながら二実に言った。
「ベルガのチーズケーキを用意してくれたんですか?」
二実が美咲に言った。
「ええ、今日手伝ってくれたお礼よ。」
美咲が大きな声で二実に言った。
「二実さん!!ありがとうございます!!」
麻衣子が美咲に言った。
「それなら美咲はスイーツを食べる準備をしてきてよ。」
美咲が麻衣子に言った。
「もちろんそうするつもりよ。」
すると冬湖が美咲に言った。
「美咲さん?でしたら私もお手伝います。」
亜美が美咲に言った。
「私も手伝いますね。」
美咲と由香と亜美の三人は大広間を出ていった。
三人が出て行った後で麻衣子が二実に言った。
「二実さん?美咲の扱いが上手くなってきましたね?」
二実が麻衣子に言った。
「そうかな?美咲ちゃんが喜ぶと思って買ってきたんだけど。」
二実がみんなに言った。
「それじゃあ改めて情報を整理してみましょうか?」
三緒が二実に言った。
「情報はいろいろと集まったわね。」
麻衣子が三緒に言った。
「そうですね。色々と意味不明すぎますけど。」
二実が麻衣子に言った。
「特にマジックで部屋中が真っ黒になるまで壁と天井に同じ文字を書き続けた事とかね。」
少しの間全員が沈黙した。
そして三緒がみんなに言った。
「明洋(あきひろ)は何がしたかったのかしら?」
晴南がみんなに言った。
「マジックで書いてるんだから、部屋の模様替えしたかったんじゃないの?」
麻衣子が晴南に言った。
「模様替えするならペンキなり壁紙を使うでしょ。マジックで模様替えする人なんて聞いたことないわよ。」
拓也が麻衣子に言った。
「それなら落書きのつもりだったのかもしれないな?」
晃太が拓也に言った。
「落書きなら文字を書いた上にさらに文字を書いたりしないんじゃないか?それに落書きなら目立つようにもっと一文字一文字を大きく書くはずだ。でも壁に書いてあった文字の大きさは全部小さかった。あんな小さな文字で落書きしても意味がないだろう?」
麻衣子がみんなに言った。
「それじゃあ誰かへのメッセージとか?何かを伝えようとしていたとか?」
晃太が麻衣子に言った。
「メッセージを残すつもりならSNSやメールを使った方が確実だ。自分の部屋の壁にメッセージなんて残しても見れる人間はほとんどいないだろう。ましてや上からどんどん同じ文字を書き続けて下の文字が見えなくなってるんだ。これじゃあせっかく文字を書いても何も伝えられない。」
二実がみんなに言った。
「うーん?やっぱり明洋(あきひろ)がこんな事をする理由が全然わからないわ。更に自分の部屋を真っ黒にしてるのは明洋(あきひろ)だけじゃないのよね。敏子(としこ)と里穂(りほ)ちゃんそして柚羽(ゆずは)ちゃんも同じ行動をしていた。」
三緒が二実に言った。
「ええしかも同じ日の同じ時間に。明洋君、敏子、里穂ちゃん、柚羽ちゃんの四人が6月10日の深夜に自分の部屋に籠ってあの日時を書き続けて部屋の壁と天井を真っ黒にしてるのよね。四人とも全然違う場所にいたにも関わらずほぼ同じ時間に同じ行動をしている。」
晴南が麻衣子に言った。
「ねえこんな事ってあり得るのかしら?」
麻衣子が晴南に言った。
「あり得る訳ないでしょ。絶対にありえないわ!!」
優斗が二実に尋ねた。
「四人とも面識は無いんですよね?」
二実が優斗に言った。
「うんそのはずだよ。面識があるのは明洋(あきひろ)と敏子(としこ)だけ。柚羽(ゆずは)ちゃんや里穂(りほ)ちゃんは明洋達とは面識が無いはずだよ。明洋(あきひろ)や敏子(としこ)をあのマンションに呼んだ事はなかったから里穂(りほ)ちゃんが明洋(あきひろ)や敏子(としこ)を知る術はないはずだよ。」
麻衣子が優斗に言った。
「私も柚羽(ゆずは)は明洋(あきひろ)さん達とは面識は無かったと思うわ。明洋(あきひろ)さんや里穂(りほ)さんの名前、二実さんから初めて聞いたもん。」
晃太がみんなに言った。
「顔も名前も連絡先も知らないのに6月10日の深夜に4人は同じ行動をしていた。四人とも眠りもせずにひたすら壁と天井に、2019年6月11日19時19分をひたすら書き続けて部屋中を真っ黒にした。」
優斗が晃太に言った。
「本当にどういう事なんだろう?明洋(あきひろ)さんも柚羽も一体何がしたかったんだろう?」
すると晴南が晃太に尋ねた。
「ねえ前日の行動ってそんなに重要なの?それよりも柚羽が今どこにいるかの方が重要じゃないの?」
晃太が晴南に言った。
「明洋(あきひろ)さん達がどこに行ったのかを推測する為に直前の行動を調べてるんだ。」
優斗が晃太に言った。
「うん、直前の行動からその後の行動を推測するのはよく使われるやり方だけど。」
晃太が優斗に言った。
「ああ、ここまで直前の行動がおかしいと推測するのはほぼ無理だろうな。」
二実がみんなに言った。
「でも晴南ちゃんの言う通りかもね。参考程度に聞くつもりだったけど、すっかりこっちが本題になっちゃってたわね。」
晃太が二実に言った。
「それは仕方ないと思います。直前の行動があそこまでおかしいと困惑するのが普通です。」
優斗が二実に尋ねた。
「そういえば明洋さんや敏江さんはこっちには戻らないって言ってたんですよね?」
二実が優斗に言った。
「私が明洋と敏子に6月9日の木曜日に大学で良かったら一緒に道内に戻るって聞いたんだけど、その時は金欠だから二人とも戻れないって言ってたのよね。」
優斗が二実に言った。
「それなのに実際は6月10日の真夜中に戻ってきている。」
二実が優斗に言った。
「ええそうよ。明洋も敏子も自宅の鍵を持っていたにも関わらず真夜中にチャイムを鳴らし続けて二人のお母さんを叩き起こして玄関を開けさせた。」
晃太が二実に尋ねた。
「二人とも自宅の鍵を持ってたんですか?」
二実が晃太に言った。
「ええ持ってたらしいわ。」
晃太が二実に言った。
「それじゃあ明洋さんと敏子さんはチャイムを鳴らす必要はないと思いますが?」
二実が晃太に言った。
「ええ私もそう思うわ。でも二人はチャイムを鳴らし続けたらしいわ。」
二実がみんなに言った。
「明洋(あきひろ)と敏子(としこ)は金曜日の真夜中に突然神奈川から北海道に強行軍で帰ってきて、自宅の鍵を持っているにも関わらず玄関チャイムを鳴らし続けて玄関を開けさせた。そしてずっと無言のまま朝まで一睡もせずに自分の部屋の意味不明な文字を壁が真っ黒になるまで書き続けて、午前5時になったらどこかに出かけていった。本当に直前の行動が訳分からないわね。」
三緒が二実に言った。
「本当に明洋(あきひろ)君も敏子(としこ)もどうしちゃったのかな?」
すると優斗が二実に言った。
「二実さん?とりあえず四人が出かける前の行動は一旦置いときませんか?」
二実が優斗に言った。
「まあ確かにその方がいいかもね。考えれば考えるほど訳が分かんなくなるもんね。」
二実がみんなに言った。
「それじゃあ明洋(あきひろ)達があの日どこに行ったのか考えてみよっか?」
麻衣子がみんなに言った。
「柚羽も朝の午前5時に出かけてるのよね?柚羽も明洋さんもどこに行こうとしてたんだろう?」
晴南が麻衣子に言った。
「明井田の中心部に行こうとしたんじゃない?きっと骨休めに明井田の中心部で遊ぼうとしてたんじゃない?」
二実が晴南に言った。
「いや多分それはないんじゃないかな?仮に明井田の中心部に行くなら、午前5時に出かける必要はないわよね?明井田市内なら車なら30分バスを使っても1時間もあれば、サンライズ明井田や明井田プラザに到着するわ。そしてどっちも営業時間は午前10時からよ待ち合わせを考えても午前8時くらいで十分間に合うわ。」
三緒が二実に尋ねた。
「なら他の店に行ったんじゃない?」
二実が三緒に言った。
「午前5時や6時から開いてるお店なんてほとんどないわよ。午前5時に開いてる店なんてコンビニぐらいでしょ?」
拓也が二実に言った。
「なら友達の所に遊びに行ったとかかもしれません。」
二実が拓也に言った。
「土曜日の午前5時に友達の所に遊びに行かないと思うんだよね?遊びに行くならもっと遅い時間か金曜の夜からとかにするんじゃないかな?」
拓也が二実に言った。
「確かにそうですね。」
三緒が二実に言った。
「遊びじゃないなら仕事じゃないの?バイトとかを引き受けててその為に戻ってきたとか?」
二実が三緒に言った。
「バイトか、なるほどそれならありそうな話だけど。」
すると優斗が二実に言った。
「二実さん、それはないと思います。」
二実が優斗に尋ねた。
「優斗君、どうしてそう思うの?」
優斗が二実に言った。
「北海道でバイトをするよりも神奈川でバイトをした方が効率がいいんじゃないですか?」
二実が優斗に言った。
「確かにね。神奈川と北海道じゃ時給もかなり違うし。そもそもお金を稼ぐつもりならこっちまで戻ってこないわよね。こっちに戻ってくるとなると往復で3万円くらいはかかるからね。」
三緒がみんなに言った。
「でも遊びにでもバイトでもないとすると明洋達はなんで朝早くに出かけたのかしら?」
二実が三緒に言った。
「案外すぐに戻ってくるつもりだったのかな?」
三緒が二実に言った。
「大きなリュックを背負ってすぐにもどってくるつもりとはとても思えないけど。」
二実が三緒に言った。
「それもそうねえ。」
二実がみんなに言った。
「一番気になるのは明洋と敏子と柚羽ちゃんと里穂ちゃんの四人が同じ時間に出発しているのよね?」
晃太が二実に言った。
「そうですよね、四人とも面識も連絡手段もないのになぜか同じ時間に家を出ている。」
晴南が晃太に尋ねた。
「たまたま同じ時間に家を出ただけじゃないの?」
晃太が晴南に言った。
「午前7時や午前8時ならたまたま重なったってのもありうるんだが、近場に行くのに午前5時に家を出るのがまず考えられないからな。」
晴南が晃太に尋ねた。
「近場に行こうとしていたってなんで断定できるの?」
晃太が晴南に言った。
「柚羽や里穂さんはまだ未成年だから行動範囲はあまり広くないだろうし、明洋さんや敏子さんは帰省してる訳だからな。実家まで遠路はるばる戻ってそこから更に遠出をするとは考えにくい。」
晃太が晴南に言った。
「四人がたまたまあの時間に家を出たなんてまず考えられない。だからといって柚羽は明洋さんの事を知らなかったのだから示し合わせて同じ時間に出たとも考えにくい。」
優斗が二実に言った。
「ところで二実さん?さっき久美子さんに色々とお話を聞かれてたみたいですけど?それ僕達には話せない内容だったんですか?」
二実がみんなに言った。
「うーん、話せない内容って訳ではなかったんだけど、あんまり面白い話じゃないよ。行方不明になってる子が結構いるってこの前に久美子さん(二実のマンションの管理人)が話してたじゃない?それで久美子さんがその話の続報を教えてくれたのよ。そしたら明井田中学だけで200人以上の子達と連絡が取れなくなってるらしいわ。」
優斗が二実に聞き返した。
「えっ?200人???二実さん??それ本当なんですか??」
二実が優斗に言った。
「ええ間違いないと思うわ。」
二実がみんなに言った。
「それでさ少し怖くなるんだけど、その連絡が取れなくなってる子達も敏子や柚羽ちゃんみたいに部屋が真っ黒になってるんですって。その子達も11日の午前5時に自宅を出て行ったらしいわ。」
三緒が二実に言った。
「そんな事はさすがにあり得ないでしょ?」
二実が三緒に言った。
「私は間違いない情報だと思うわ。明井田中学の生徒の保護者の人達が集まって行方不明になってる子供達の連絡会を作るらしいわ。もし行方不明者が出ていないなら連絡会なんて必要ないでしょ?」
麻衣子が二実に言った。
「事実だとするかなり怖いですね?」
二実がみんなに言った。
「そうね。敏子や明洋の行動が同じってだけでも気味が悪いってのに、200人以上の子達が同じ行動をしてたとか恐怖以外のなにものでもないわ。」
そうまず普通ではありえないのだ。複数の人間が同じ時間に同じ行動をするとなると緊密な連絡や協調が必要になるのだ。
何の面識もない人間同士が示し合わせたかのように同じ時間に同じ行動をする事などできる訳がないのだ。
拓也がみんなに言った。
「さすがにたまたまって事はないよな?」
三緒が拓也に言った。
「ええ、たまたまなんてあり得ないと思う。どう考えたっておかしいわ!!」
二実が三緒に言った。
「敏子や明洋の前後の行動を調べれば何か分かるって思ったんだけど、甘かったわ。分かるどころかどんどん意味不明になってくる。」
すると少女の声が響いてきた。
「ねえみんな??チーズケーキいらないの?」
みんなが驚いて声がした方を振り向くと美咲が立っていた。
麻衣子が美咲に尋ねた。
「あれっ??美咲?どうしたの?」
美咲が麻衣子に言った。
「それはこっちのセリフよ。もう6時過ぎてるわよ?私達とっくに食べ終わっちゃたわよ?」
麻衣子が美咲に言った。
「えっ?もうそんな時間??」
大広間に備えつけられた時計を見ると美咲のいう通り午後6時を過ぎたところだった。
麻衣子が言った。
「そろそろ帰らないと?」
二実がみんなに言った。
「みんなごめんね。ケーキを食べる時間が無くなっちゃわね。」
美咲が二実に言った。
「なら二実さん?冷蔵庫に入れといて明日食べればいいんじゃないですか?チーズケーキは他のケーキに比べれば日持ちするから明日ぐらいまでなら持つと思います。」
二実がみんなに言った。
「そうねそうしましょっか。じゃあチーズケーキは明日という事で、それじゃあみんな家まで送ってくわ。」
するとスマホの着信メロディが流れ始めた。
麻衣子が自分のスマホの着信に気がついてスマホを取り出した。
麻衣子が電話に出た。
「はい、もしもし。あっ健太君?どうかしたの?」
晴南が麻衣子に尋ねた。
「ちょっと麻衣子??健太からなの?だったら私達にも聞こえるようにして。」
麻衣子が晴南に言った。
「えっ、うん、いいけど。」
麻衣子は晴南に促されてスピーカーモードにした。
するとスマホから健太の大音量の鳴き声が流れてきた。
「うあああ!!うあああ!!なんで・・・!」
健太の泣き声が周囲に響いた。
すると晴南が大きな声で健太に言った。
「ちょっとどうしたのよ健太?なんで泣いてるの?」
スマホから泣き声まじりの健太の声が流れてきた。
健太の泣きながら大きな声でしゃべっているようだった。
「うあああ!!柚羽姉さんがー!!柚羽姉さんが・・・・!!!」
晴南が大きな声で言った。
「何ですって!!」
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