第26話 一網打尽

冒険者達はまだ四魔将リグロを倒せていなかった。


それどころか更にややこしい事態になっていた。


冒険者の魔導師が詠唱を行っていた。


「天よりきたりし炎よ、矢となりて全てを焼き尽くせ!!フレアアロー!!」


火の玉が矢の形になり、それが何本も魔導師の上に現れた。


そしてリグロめがけて炎の矢が飛んでいった。


だがその直線上には他の冒険者がおり、フレアアローは冒険者の剣士に当たってしまった。


その剣士はフレアアローを食らってしまい、倒れてしまった。


だがすぐに炎を振り払うと、その魔導師に詰め寄った。


「てめえ、いい加減にしやがれ!!」


だが魔導師は悪びれもせずに剣士に言った。


「何がいい加減にしやがれ?だ!!俺様の真ん前に突っ立てたくせに何言ってやがる?魔導師の前に立ってりゃ攻撃魔法が飛んでくる事ぐらい分かるだろうが?俺様の邪魔をするためにわざと俺の前に立ってたんだろう?違うか?!!」


剣士が魔導師に言った。


「けっ!魔法を当てときながら何言ってやがる?」


魔導師が剣士に言った。


「おい!はぐらかさずに答えろ!俺様の邪魔する為に前に突っ立ってたんだろうが?」


剣士が魔導師に言った。


「けっ?!!ああ、そうだよ!!賞金を他の奴に渡してたまるか!!」


魔導師が剣士に言った。


「やっぱりな、んな事だろうと思ったぜ!!丸焼きにされたくなかったら二度と俺様の邪魔をするんな!!分かったか!!」


剣士が魔導師に言った。


「ふざけんな!!魔導師ふぜいなんざ町に帰りやがれ!!さもないとたたき斬るぞ!!」


魔導師が剣士に言った。


「んだとこら!!上等だ!!丸焼きにしてやるよ!!」


他の場所でも剣士同士でつばぜり合いをしていた。


「おい、賞金を諦めろ!!賞金は俺様が手にいれるんだ!!」


もう一人の剣士がその剣士に言った。


「てめえこそ諦めやがれ!!真っ二つにされたくなかったらな!!」


つばぜり合いをしているもう一人の剣士も言った。


「真っ二つにされるのはてめえの方だ!!」


冒険者達は冒険者同士でみにくい争いを始めていた。


セルティアは再び天写鏡の写しの横に鏡を置かせて、天写鏡の写し出した画像をブル司教と町長に見せていた。


町長がセルティアに尋ねた。


「冒険者達はリグロに操れているのですか?」


セルティアが町長に言った。


「違いますね。まだ操られている方がましです。どうやら賞金を横取りされないように冒険者同士で戦っているようです。」


町長が呆れて言った。


「何をやってるんだ!!冒険者共は!!」


セルティアが町長に言った。


「呆れるばかりですが、今は冒険者達を頼るしかありません。すぐに呼び掛けてみましょう。」


セルティアはすぐに戦闘を中止して、町の北側にある平原に集まるように冒険者達に念話で指示を出した。


だが冒険者達は誰一人としてセルティアの指示をきかなかった。


セルティアはその後も何度も繰り返し冒険者達に念話で指示を出したが結果は同じだった。


「ああもう!!冒険者達はなんでこんなに自分勝手なんですか!!」


町長も激怒していた。


「あれだけ優遇してやったのに!600億セルティも支払ったのに!!全然役に立たないじゃないか!!冒険者共め!!」


ブル司教がセルティアに言った。


「すでに町を失ってしまったというのに、冒険者同士で戦っているとはほとほと呆れた連中ですな。」


セルティアがブル司教に言った。


「全くですね。」


ブル司教が呟いた。


「ここにもおりませんな。」


セルティアがブル司教に尋ねた。


「どうかしましたか?ブル司教?」


ブル司教がセルティアに言った。


「あっいえ、魔物達が我々を追撃してこなかったので、四魔将のリグロに加勢しているかと思ったのですが、見当違いだったようです。リグロ以外の魔物は見当たりませんな。」


セルティアはブル司教に言われて気がついたようだった。


「確かに。それでは魔物達は一体どこへ?」


セルティアはすぐに魔物達がどこに行ったのかを探す事にした。


セルティアは天写鏡で町の各所を確認していった。


すると町の中央部に魔物達が集まっていた。


セルティアがブル司教に言った。


「いました、町の中央部付近です。」


ブル司教がセルティアに言った。


「ちょうど地下迷宮の出入口あたりですな。」


町長がセルティアに言った。


「奴らこんな所で何をしているのでしょうか?」


セルティアが言った。


「まさか狙いは地下迷宮?一体何の為に?」


セルティアがリグロの真の狙いに気がついた。


「そうか!何て事!!」


ブル司教がセルティアに尋ねた。


「セルティア様、まさか連中の狙いが分かったのですか?」


セルティアがブル司教に言った。


「ええ!」


ブル司教がセルティアに言った。


「まさか魔王軍も鉱物資源を狙っているという事ですか?」


セルティアがブル司教に言った。


「違います。魔物です。地下迷宮にはたくさんの魔物達がいるでしょう?」


ブル司教がセルティアに言った。


「確かにおります。それ故にこの町には冒険者達が必要なのです。迷宮の中には強力な魔物がゴロゴロおりますからな。」


セルティアが町長とブル司教に言った。


「そうその魔物達を魔王軍に組み込もうとしているのです!今でさえ苦戦しているというのにこの上魔王軍に地下迷宮の強力な魔物達が加わったら一体どうなりますか?!」


町長もブル司教も驚きながら言った。


「なっ!!」



一方こちらはセルバの町から西の方角にある荒野である。


ここで四魔将のリグロは冒険者達の足止めを行っていた。


リグロは念話で部下から報告を受けていた。


「リグロ様、現在地下迷宮を探索及び掘削可能地点を絞り込みを完了致しました。現在掘削作業を行っております。合計で十八箇所の出入口を確保できそうです。」


リグロが部下の魔物に伝えた。


「よし、掘削作業が完了しだい、ただちに中の魔物達と合流せよ!!」


リグロは地下迷宮の中にいる魔物達を地上に解き放って魔王軍の新たな戦力として組み込もうと考えていた。


トゥナス騎士団を追撃しなかったのは、地下迷宮を探索する為であった。


入りくんだ地下迷宮の通路の中から地表に近い場所を探し出して掘削し、新しい出入口を作る為であった。


地下迷宮の通常の出入口だけでは一度にたくさんの魔物を外に出す事ができなかったからである。


しばらくして部下の魔物から報告を上がった。


「リグロ様、全ての箇所で掘削を完了致しました。地下迷宮より魔物達が続々地上に出てきております。」


リグロが部下に伝えた。


「うむ、よくやった!」


部下の魔物がリグロに言った。


「リグロ様の加勢に向かいたいと思いますが?」


リグロが部下に伝えた。


「その必要はない、そのまま作業を続けろ!」


部下がリグロに伝えた。


「はっ!」


リグロの目の前で冒険者同士の熾烈な戦いが繰り広げられていた。


リグロを攻撃している冒険者はほとんどいなかった。


四魔将のリグロが呟いた。


「さて、どうしたものか?」


冒険者達はみにくい争いを続けていた。


「さっさと黒焦げになりやがれ!!この能なし剣士!!」


「黙れ!!ヘボ魔導師が!!とっとと斬られやがれ!!」


すると冒険者達が何かに気づいて頭上を見上げた。


「おいおいありゃなんだ?」


冒険者達の頭上のはるか上空に黒い雲が稲光を発しながら急速に大きくなっていった。


空を見上げた冒険者達の顔がみるみる青ざめていった。


「これはヤバイぞ!!」


空を見上げた冒険者達はすぐに逃げ出そうとした。


だがその判断は遅すぎた。


凄まじい轟音と共にたくさんの稲妻がまるで雨のように冒険者達の頭上に降り注いだ。


たくさんの稲妻が冒険者達の体を貫いていった。


冒険者達はその場に倒れ込んでいった。


そして誰一人として起き上がってこなかった。


四魔将のリグロは何も言葉を発さずに動かなくなった冒険者達を見つめていた。


その後四魔将のリグロは、魔王軍の本拠地へと帰還した。


魔王ゼルゴンの居城である魔王殿の大広間に魔物達が集まっていた。


そこに四魔将のリグロの姿もあった。


すると大広間の最前列にいた大きなデーモン(悪魔)が大声をあげた。


「ゼルゴン様のお成り!!」


「ゼルゴン様のお成り!!」


暗闇に包まれた玉座に魔王ゼルゴンが座っていた。


ゼルゴンの姿は暗闇に包まれており、その姿を図り知る事はできなかった。


リグロがゼルゴンの前に進んでゼルゴンに今回の戦況報告を行った。


「ゼルゴン様、以上が今回の戦況報告でございます。」


戦況報告を聞き終わった魔王ゼルゴンがリグロに大声で言った。


「リグロ!!」


リグロが魔王ゼルゴンに言った。


「はっ!!」


魔王ゼルゴンが言った。


「新たな命令を与える!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る