第25話 陥落

中央礼拝堂でブル司教が大声をあげていた。


「一体どういう事だ?まさか監視を怠ったのか?あれほど警戒を怠るなと言っておいただろうが?」


報告に来た男がブル司教に言った。


「いえ、もちろん監視は続けておりました。ですが魔物達が東側の市街地に突如現れたのです!!」


ブル司教がその男に言った。


「訳が分からん!魔物が突然街中に現れたというのか?」


その男がブル司教に言った。


「信じられないのですが、まさにその通りでございます。」


更に別の男が慌てて中央礼拝堂に報告にきた。


「大変です。」


ブル司教が後から入ってきた男に尋ねた。


「今度は何だ?」


後から入ってきた男がブル司教に言った。


「西側の市街地にトロールが現れました。50体はいるかと思われます!」


ブル司教が後から入ってきた男に聞き返した。


「町の西側だと?東側の間違いではないのか?」


後から入ってきた男が言った。


「町の西側でございます。」


ブル司教が大声を張り上げた。


「一体何が起こっているのだ!!」


するとセルティアが悔しそうにブル司教に言った。


「してやられたという事です!!」


ブル司教がセルティアに尋ねた。


「セルティア様。一体どういう事なのですか?」


セルティアがブル司教に言った。


「四魔将のリグロ自ら囮となって冒険者達を町の外に誘い出して、その隙に町に近くに伏せさていた別動隊でセルバを一気に制圧する。これが四魔将リグロの立てた作戦でしょう。」


ブル司教が悔しそうに言った。


「我々が魔物達に裏をかかれるとは!」


するとセルティアがブル司教に指示を出した。


「ブル司教、この町を放棄します。トゥナス騎士団の撤退の指揮をお願いします。」


するとブル司教がセルティアに言った。


「セルティア様、お待ちください。町を放棄してしまって宜しいのですか?まだ冒険者達を呼び戻すという方法が残っていますが?」


セルティアがブル司教に言った。


「いえ、それでは恐らく間に合いません。すでに魔物達は町の中深くまで入り込んでいます。冒険者達が戻ってくるよりも先に魔物達がこの町を制圧してしまいます。それならば一旦町の外まで退却して、冒険者達と町の外で合流します。そしてセルバを再奪還するために攻勢をかけた方が良いはずです。」


ブル司教が少し考えた後でセルティアに言った。


「そうですな、了解致しました。」


ブル司教は一礼をすると中央礼拝堂より出ていった。


そしてセルティアが町長に言った。


「町長!」


町長が慌ててセルティアに言った。


「はっ!」


セルティアが町長に言った。


「この指令部をすぐに町の外に移してください。ここにもすぐに魔物達が押し寄せてきます。」


町長がセルティアに言った。


「わ、分かりました!」


町長は慌てて指示を出した。


「この指令部を放棄する。すぐに退避しろ!!」


町長の退却指示によって部下達は慌てて退却準備を始めた。


魔物達は中央礼拝堂に迫りつつあった。


町長とその部下達は大急ぎで退却準備を済ませると、最低限の荷物だけ持って魔物達が到達する前に町の外に退避する事ができた。


それから少し時間が経った。


町長達はセルバから少し離れた野原に仮の指令部を設けた。


町長は天写鏡の写しを使ってセルティアに報告した。


「セルティア様、町の外に仮の指令部を設置致しました。」


セルティアが天写鏡越しに町長に言った。


「そうですか。町長ご苦労様です。」


そこにブル司教が甲冑姿でやってきた。


ブル司教が天写鏡越しにセルティアに言った。


「セルティア様、ただいま戻りました。」


セルティアがブル司教に言った。


「ブル司教、無事でしたか。」


ブル司教がセルティアに言った。


「はい!おかげさまで。」


セルティアがブル司教に言った。


「それでトゥナス騎士団の撤退の方はどうなりましたか?」


ブル司教がセルティアに言った。


「トゥナス騎士団の退却が完了致しました。多くの者達を町の外に脱出させる事に成功致しました。」


セルティアがブル司教に言った。


「そうですか、ご苦労様です。」


するとブル司教がセルティアに言った。


「それで一つ気になる事がございまして。」


セルティアがブル司教に尋ねた。


「気になる事ですか?」


ブル司教がセルティアに言った。


「多くの者を逃がす事ができたのは、魔物達が追撃をかけてこなかったからなのです。」


セルティアがブル司教に言った。


「確かにそれは気になりますね。」


町長がブル司教に言った。


「魔物の浅知恵では?追撃を忘れていただけでしょう。」


ブル司教が町長に言った。


「私とて認めたくはないが、これだけ手の込んだ陽動をしてくる四魔将のリグロが浅知恵だと思うか?四魔将のリグロは自らを囮して突如町の東側に魔物の大軍を出現させた。とてもではないが浅知恵でこんな事ができるとは思えん。」


町長がブル司教に言った。


「ふーむそう言われるとそうかもしれません。それでは連中はどんな手を使って町中に突然姿を現したというのですか?」


ブル司教が町長に言った。


「いやその方法はまだ分からんのだ。」


町長がブル司教に言った。


「そうですか。」


セルティアが町長に言った。


「それでしたら見当がつきました。恐らく東側で待機していた魔物全てに幻惑魔法をかけて姿を消したのでしょう。その状態で少しづつ東側の荒野から町に近づいていったんです。そして町に入ったと同時に幻惑魔法を解除した。姿を消した状態では素早く動き回る事はできませんからね。」


町長がセルティアに言った。


「それで突如町の中に現れた訳ですか?」


セルティアが町長に言った。


「ええ。」


ブル司教がセルティアに尋ねた。


「しかしいくら姿が消えているといっても魔物の大軍が近づいてこれば、さすがに誰かが気づくと思うのですが?」


セルティアがブル司教に言った。


「ええ、ですから私達の注意をそらす為に町の西側から派手に攻めたんでしょう。私達はまんまと奴の策にはまってしまった訳です。」


町長がセルティアに尋ねた。


「では町の西側に突如現れたトロールは?」


セルティアが町長に言った。


「まだ倒されていないトロールが死んだふりをしていたのでしょう。他の死体に混ざって冒険者達をやり過ごして、そいつらが起き出してきたのです。」


町長がセルティアに尋ねた。


「トロールが死んだふりをしていたのですか?」


セルティアが町長に言った。


「ええ、恐らくは。ただこれは、冒険者達の落ち度でしょうね。ちゃんと一体づつ確認していれば、この策は防げました。たくさん魔物を狩るのに夢中で一つ一つの確認が疎かになっていたんでしょう。」


町長がセルティアに言った。


「そういう事だったのですね。」


セルティアが町長に言った。


「ともかく今は冒険者達をここに呼びましょう。冒険者達がリグロを倒してくれているといいのですが?」

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