第12話 校長先生

次の日、晴南達は昼休みが終わり五時間目の授業を受けていた。


この時間の授業は美術室で美術の授業となっていた。


美術室は校舎の三階にあり、美術室の中には美術用具がたくさん置かれていた。


美術室の前方に机が並べられていて、晴南達はそこに座っていた。


美術の担当教師はこの九木礼中学の校長でもある熊田敏弘(くまだとしひろ)校長だった。


熊田校長は定年近くの白髪の混じった小柄な男性だった。


すると熊田先生は絵画用の厚い画用紙をみんなに配った。


「今日は絵を描いてもらう。すきな物を書いて構わんぞ。」


晴南が熊田校長に尋ねた。


「校長先生、何でもいいんですか?」


熊田校長が晴南に言った。


「ああもちろん、学校の中の風景でも動物でも空想上の物でも何でも構わんぞ。道具もこの美術室の物を好きに使ってくれて構わんぞ。」


晴南達は絵画の道具を携えて絵画の題材を探す為に学校内に散っていった。


しばらくして各々で題材を決めて絵を描き始めた。


しばらくして授業終了が近づいてきた。


晴南達は全員が美術室へと戻ってきた。


そして晴南達は題材について話し始めた。


麻衣子が冬湖に尋ねた。


「冬湖は何にしたの?」


冬湖が麻衣子に言った。


「私は自宅で飼ってる猫のミウを描いてます。」


冬湖が猫のミウの絵をみんなに見せた。


すると麻衣子が拓也に尋ねた。


「へえー、拓也君は何にしたの?」


拓也が麻衣子に言った。


「俺は美術室の石膏像を描いてる。」


拓也はそう言うと書きかけの石膏像のスケッチをみんなに見せた。


拓也が慎吾に尋ねた。


「慎吾は何にしたんだ?」


すると慎吾が拓也に言った。


「おいは角野里(かくのさと)ば描いとる。」


そう言うと慎吾は書きかけの力士の角野里(かくのさと)の絵を見せた。


すると七緒が麻衣子に言った。


「私のも見て見て。」


だが七緒が見せた画用紙には何も描かれていなかった。


「あれ七緒?何も描いてないじゃん?」


七緒が麻衣子に言った。


「うん、何も描いてないよ。この空白こそが私の表現したいものなんだよ。」


麻衣子が七緒に言った。


「ねえ、七緒また昼寝してて書けなかっただけじゃないの?」


七緒が麻衣子に言った。


「ひどいよ、麻衣子。いくら私でもそんな事しないよ。」


麻衣子が七緒に聞き返した。


「そうなの?」


七緒が麻衣子に言った。


「すぐに絵の題材を空白にするって決めてその後ずっと寝てただけだよ。」


麻衣子が七緒に呆れて言った。


「大して変わんないでしょ。」


すると晴南が七緒に言った。


「七緒、なかなかやるわね。七緒がここまで芸術センスが鋭いとは思わなかったわ!」


麻衣子が晴南に言った。


「そおー?」


すると麻衣子が晴南に尋ねた。


「それで晴南は何を描いたの?」


すると晴南がみんなに言った。


「そうそう、これが私の絵よ。見てちょうだい。」


そして晴南は自分の描いた絵をみんなに見せた。


晴南の絵を見た麻衣子が晴南に言った。


「ちょっと晴南、何よこれ?」


そこには隅々まで真っ黒に塗られた絵?があった。


麻衣子が晴南に言った。


「画用紙一面が真っ黒なんだけど?他に何も描いてないんだけど?」


晴南は麻衣子に自信満々で言った。


「これは深淵よ。深まる海底の闇を書いたのよ。」


すると熊田校長が晴南に言った。


「ほっほっほ。水元さんは面白い発想じゃな。結構、結構。」


長孝が晴南に言った。


「俺もハル姉みたいに抽象画にした方が良かったすかね?」


晴南が長孝に尋ねた。


「そういえば、長孝はどんな絵?」


長孝が晴南に言った。


「ただの風景画っすよ。」


長孝はそう言うと絵をみんなに見せた。


そこには山々に挟まれた九木礼町の街並みがとても綺麗に描写されていた。


美咲が長孝に尋ねた。


「これ三階の窓から描いたの?」


長孝が美咲に言った。


「はい、三階のバルコニーから描いたっす。」


冬湖が長孝に言った。


「細かい色使いをしてるのにもう色まで塗り終わってるのね。さすがは羽部君ね。」


晴南が長孝に言った。


「うあー、まるで写真みたい。本当に長孝は絵が上手いわね。」


晃太が長孝に言った。


「長孝は絵画コンクールで優勝した事もあるしな。」


長孝が晃太に言った。


「いやあれはたまたまっすよ。」


晴南が長孝に言った。


「フッフッフ、さすがは我がライバル長孝ね。」


長孝が晴南に言った。


「いえ、ハル姉も九良平先輩もあんな絵が描けるなんてさすがです。」


すると晃太が長孝に尋ねた。


「すまない長孝それは本心で言ってる訳じゃないよな?」


長孝が晃太に言った。


「えっ?もちろん本心っす。」


晃太が長孝に尋ねた。


「すまない長孝、二人の絵のどのへんがすごいのか教えてくれないか?」


長孝が晃太に言った。


「表現方法が斬新なんすっよ。」


熊田校長もみんなに言った。


「ワシも水内さんの絵も九良平さんの絵もなかなか面白いと思うぞ。」


晴南がみんなに言った。


「えっへん。どうやら私にも芸術の才能があるようね。」


七緒が晴南に言った。


「うん晴南、これからも頑張ろう。」


麻衣子が少し戸惑ったように言った。


「ちょっと何この流れ?この黒く塗りたくっただけの晴南の絵は凄いの?手抜きにしか見えない私の方が間違ってるの?」


すると熊田校長が麻衣子に言った。


「堀川さん、美術というのはどんな形であれそれは個性なんじゃ。風景画という表現もあらば、抽象画という表現もある。どんな形でもそれはかけがえのない美術の作品なんじゃよ。もちろん堀川さんの作品もかけがえのない作品じゃ。」


麻衣子が熊田校長に尋ねた。


「つまり正解が無いって事ですか?」


熊田校長が麻衣子に言った。


「まあそういう事じゃな。」


すると授業終了のチャイムが鳴った。


「さあさあ授業は終わりじゃ。今日描いた絵はこの教室に置いといていいぞ。後ろの棚が空いてるからそこに並べといとくれ。」


すると優斗が熊田校長に尋ねた。


「美術室に置きぱなしでいいんですか?いつもは隣の美術準備室に置いてますよね?」


熊田校長が優斗に言った。


「ああ隣の美術準備室の扉が今壊れておっての。中には入れんからそこで構わんぞ。」


そう言うと校長先生は美術室を後にした。


晴南達も今日描いた絵を後ろの棚に置いて美術室より出ていった。

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