第11話 ドッキリ

家にいるはずの晴南の父がどこにもいなかった。


晴南は居間で考え込んでいた。


居間で考えこむ晴南の元に、背後からゆっくりと忍び足で近づいてくる者がいた。


晴南はちょうど逆の方向を向いており、すぐには気づかなかった。


そいつが晴南に至近まで近づいたとこで、ギイーと床がきしんで音が響いた。


晴南は驚いて後ろを振り返った。


すると晴南の至近距離に、パーカー姿の不審者が立っていた。


そいつはとてもいかつい体格だった。


不審者はパーカーを深く被っており、顔は分からなかった。


不審者に気づいた晴南は大きな声をあげた。


「だ、誰よ?あんた?!!」


不審者は何も答えなかった。


すると晴南はとっさに身を屈めると、不審者に近づいて大男の左足のむこうづねを力一杯蹴った。


「ぐあ!」


不審者はとっさの事で反応できずに、体勢を崩して全身を床に叩きつけられた。


晴南はすかさずに畳み掛けようとした。


パーカー姿の不審者が言った。


「待ってくれ!」


すると不審者が深く被っていたパーカーを後ろにやって顔を晒した。


晴南は不審者の顔を見て驚いた。


そして大きな声で言った。


「お、お父さん!!」


するとお父さんと呼ばれた男が晴南に言った。


「やあ晴南!お帰り!」


晴南が晴南の父に言った。


「やあ晴南お帰り!じゃないんだけど?何してるのお父さん!」


晴南の父が晴南に言った。


「ドッキリだ!もちろん!」


晴南が父に聞き返した。


「ドッキリ??」


父が晴南に言った。


「そう、こうして料理を準備して晴南が帰ってくるのを待っていたんだ!晴南を驚かそうと思ってな。どうだ?驚いたろう?まるで忽然と消えたみたいだったろう??」


彼は水内礼二(みずうちれいじ)と言って、晴南の父親であった。


晴南が礼二に言った。


「うん、心配しちゃったよ、お父さんが消えちゃたかと思った!」


礼二が晴南に言った。


「大丈夫だ!父さんはここにいる!何があっても晴南の所に帰ってくる!!」


晴南が礼二に言った。


「うん、そうだよねお父さん!」


礼次は晴南を抱きしめた。


少し経って抱擁を止めると、礼次が晴南に言った。


「さあ晴南、今日は肉じゃがだ!たくさん食べてくれ!」


晴南が礼二に言った。


「やったあー、もうお腹ペコペコ!」


そして二人は夕食を食べた。


それからしばらくして二人は夕食を食べ終わった。


すると晴南が礼二に尋ねた。


「でもお父さんどこに隠れてたの?さっき探した時は見つからなかったけど?」


礼二が晴南に言った。


「クローゼットの奥に死角を作っといたんだ。隠れられるようにな。」


晴南が礼二に言った。


「そっかクローゼットの奥に隠れてたんだ。全然気づかなかったわ!私もまだまだね。」


礼二が晴南に言った。


「いや、晴南は即座にむこうづねを蹴って父さんを倒したんだ!じゅうぶんに凄い!」


晴南が少し照れながら礼二に言った。


「そうかな?凄いかな!」


礼二が大きな声で晴南に言った。


「ああ、凄いさ、自慢の娘だ!はっはっは!!」


晴南もつられて笑った。


「あははは!」


すると晴南は思い出したように礼二に言った。


「あっそうだ、お父さん!実はお願いがあるんだけど?」


礼二が晴南に尋ねた。


「うん、なんだ?」


晴南が礼二に言った。


「実は今日道の駅にみんなで買い物に行ったんだ!ファッションの店キクヨで、閉店セールをやってて買いすぎちゃったの。それでおこずかい使い果たしちゃってピンチなの?今月だけでいいから、助けてお父さん!」


すると礼次は鬼のような形相で晴南に尋ねた。


「何?つまり小遣いをよこせという事か?」


晴南が礼次の顔を見ながら恐る恐る尋ねた。


「うん、その??駄目かな??」


礼次が鬼のような形相で晴南に言った。


「そんな事聞くまでもないだろう!!」


晴南が諦めた様子で言った。


「そうだよね。」


礼二が晴南に言った。


「もちろんダメ・・・じゃないよ!」


晴南が礼二に言った。


「本当?!!ありがとうお父さん!大好き!!」


その後水元邸の居間ではこんな会話がしばらく続いた。

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