掌編小説・『石』

夢美瑠瑠

第1話 パワーストーン


掌編小説・『石』


                          

                             1> パワーストーン                     


 おれは醜男(ぶおとこ)で、コミュ障で、虚弱体質だ。鏡を見ていると吐き気がするし、女の子たちもマスクを外すと嫌な顔をする。会話をすると「のつそつ」して、会話だか難行苦行だかわからなくなる。年中医者にかかっていて、ユンケルとか風邪薬とかをやたらに飲んでカンフル剤代わりにして始終自分をインスパイアしていないと生きているのか死んでいるのかわからないような惨憺たる主観になる。ゆっくりものを考えていると世間のペースに遅れて、仲間外れになる。こうやって何か書いていても、やっぱり書いていることにも、自分にも自信がなくて、誰だかえらい作家に感情移入したりしてやっと事なきを得る。要するに自分というものがしっかり確立していない。ロープレみたいに弱いキャラでも経験値がたまるとそれなりに格好がつくが、あんなふうに最近はぼつぼつ女友達とかできるくらいに恰好がついてきた。「亀の甲より年の劫」というのはこういうことかと思う…

 「こんなことではいけないな」と、人並みに自省したり、起死回生の一策とかを画策したりもしていて、月賦で買った中古のパソコンで人並みにいろいろと「極秘情報」とかがないか、いろいろとサイトを漁ったりしている。今日は「人生を変える」というキーワードで検索してみた。「人生を変える」などというキーワードで背中を丸めて検索などしている時点で相当にダサい感じで、ちょっと人に見られたくない構図だが、背に腹は代えられない。

 もちろんネット情報というものは玉石混交で、大量のクズ情報や宣伝のサイトとかで埋まっているのだが、その中に「宝石」がやっぱり混じっているときには混じっている。その日も、ある言葉におれの研ぎ澄まされたアンテナがピクピクっと反応した。「本物パワーストーン!…購入者から感謝のお便りが殺到!リピーター率100%…」というやつだ。文字通りの「石」の話だが、「玉」か「石」か内容を読んでみないことにはわからない。おれはまずパワーストーンというのがだいたい嫌いではない。で、感謝のお便りが殺到していて?リピーター率が100%?話半分として聞いてもすごいではないか。さっそくサイトにアクセスすると、赤いゴシック体で、「ハッピーパワーワールドにようこそ!おめでとうございます!あなたは幸運へのパスポートを手になさいました!…云々」とあり、画面を進めていくと「さっそく「診断」をいたします。あなただけのオーダーメイドパワーストーンをおつくり致します。代金は後払い。効果がない場合は90日間の間返品を承ります…」と続いている。オーダーメイド?それにパワーストーンの返金保証というのも珍しい。ますます興味をそそられて「診断」内容を見てみると、まず名前の画数と生年月日、叶えたい望みの種類などを入力するらしい。「石平凡平」、「昭和50年3月13日」、「恋愛成就」「金運隆盛」などといろいろフォームに打ち込んで、「さて?」と結果を見ると「あなたにぴったりのパワーストーンは…」という金色の飾り文字が出ている。

 おれは固唾をのみながらマウスを操ってその先を読んだ。


<続く>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

掌編小説・『石』 夢美瑠瑠 @joeyasushi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ