水晶の里村のムーン
犬時保志
第一章 プロローグ
第1話 月夜の虹
ここは訪れる者など殆ど居ない山の中、鬼の里と呼ばれる里村だ。
別に鬼が住んで居る訳では無く、村民は何も変わった所の無い普通の人間だ。
里村の近くの山から良質な水晶が産出されるので、辺ぴな山の中でも意外に裕福な村である。
里村は険しい山脈の中腹に広範囲に点在し、村人以外は鹿かヤギ位しか住んでいない、点在する村民全て合わせても100人弱の人口だ。
満月の夜に生まれ、ムーンと名付けられた私の住む村、鬼の里には変わった伝説がある。
満月の夜、長時間月光を浴びると餓鬼に変貌するって、変でしょ?
夜更かししないよう、恐怖心を植え付け言い付けを守らす、子供だましのお話だよね。
私は畑仕事だけで無く、豊富な山の幸を採取するため頻繁に山に入ってる。
村の人達に配っても喜ばれるし、アケビや
いっぱい山菜が採れて、いつもより少し時間が掛かってる。
時間に余裕が有るけど今夜は満月、山菜採りを切り上げ下山する事にした。
「あれ、雨が降ってきた」
雨宿りに丁度良い水晶採掘の洞穴が、近くにあるのを思い出した。
「いや!ずぶ濡れになっても下山しないと」
本当かどうか『水晶の洞窟には夜入るな餓鬼が出る』って言われてる。
どうせ子供だまし、夜山に入るなって戒めだろうが、気味が悪い所には近付かないよ。
「土砂降りになってきた、キャァ!!」
視界が悪く私が踏み出した所に地面が無かった、斜面を転落中意識が
ずぶ濡れの衣服が気持ち悪く、肌寒さで意識が戻った。
ここが何処で私がどうなってるのか、懸命に思い出そうとするが、脚の痛みで思考が集中出来ない。
「私は誰だ?」
私が何をして居たか名前すら思い出せない。
辺りが明るくなった感じがして空を見上げた。
「美しいな!満月の月の出なんて初めて見た…ガッガガ?」
突然頭痛が起こり、何かを拒否する様に身体が自然に月を背にし、西の空に目を向けた。
「夜に虹?…あぁ!あれがムーンボウか」
幻想的な月夜の虹に暫し見とれていた。
頭痛が治まった頭に手をやると、右頭頂に固い物が生えて居る。
何度触っても、右頭頂に角らしき物がある。
「えっ?ええ!!角が生えた?私餓鬼になったの?」
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