第12話 馬車の中で

 私は、ロクス様と一緒に馬車に乗っていった。

 今日は、ヴァンデイン家の人々に会う日である。迎えに来てくれたロクス様とともに、ヴァンデイン家の屋敷に向かっているのだ。


「セレンティナ様、緊張されているのですか?」

「は、はい……」


 馬車の中で、ロクス様は私のことを心配してくれた。

 昨日から、私はずっと緊張している。昨日の夜も、あまり眠れなかったくらいだ。

 ラカニアにも言われたのだが、緊張する必要はないはずなのである。ヴァンデイン家の人々は、絶対にいい人だ。何も心配する必要はないはずなのである。

 それを頭で理解できていても、心はどうしようもなかった。心情的に、知らない親族に会うのは、どうしても緊張してしまうのだ。


「それも、当然ですね……無理もないでしょう。ただ、安心してください。皆、あなたを歓迎してくれますよ」

「そうなのですか?」

「ええ、大丈夫です。まあ、こう言っても、完全に緊張しないというのは、無理な話だと思いますが……」


 緊張している私に、ロクス様はそのように言ってくれた。

 やはり、ヴァンデイン家の人々は、私のことを歓迎してくれているらしい。

 なんとなくわかっていたことが、ヴァンデイン家のロクス様から言われたことで、それを確信に変えることができた。

 そのことで、私の緊張は少しだけ和らいだ。歓迎されているとわかり、少しだけ安心できたのである。


「今日はまず、ヴァンデイン家の現当主に会ってもらいます」

「現当主ということは……」

「ええ、僕の父上であり、あなたの父上の兄であるログド・ヴァンデインです」


 今日は、最初にログド様と会うようだ。

 ログド様は、私の父親の兄にあたる人物である。つまり、私にとっては伯父ということになるのだろう。

 公爵家の現当主が伯父。その事実は、今更ながら驚くべきことだった。


「父上は、あなたと会えることを一番楽しみにしている人です。亡き弟の忘れ形見……あなたのことをそう思っていますから」

「忘れ形見ですか……」


 どうやら、ログド様はかなり私に会いたがっているらしい。

 それは、私が亡き弟の忘れ形見であることが理由のようだ。

 恐らく、私の父親と一番関わりが深いのはログド様のはずである。そのため、一番会いたがっているのは、当然のことだろう。


「私の父とログド様は仲が良かったのですか?」

「ええ、仲は良かったみたいですよ」

「そうなのですね……」


 ログド様は、私の父と仲が良かったらしい。

 だが、よく考えてみれば、それは当然のことだった。仲が良くなければ、私と会いたがっている訳がないからだ。

 そのような話をしながら、私達はヴァンデイン家の屋敷に向かうのだった。

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