医療惑星フォボスでの新米ヒーラーの奮闘記

QCビット

第1話     どん詰まりの谷

惑星フォボス、ここいらでは病院惑星として知られている星だが、異世界転移やらダンジョン攻略の際に受けた傷や毒、もしくはヘンテコな病原体やらウイルスなんかに感染して、当該世界では直しきれない患者が運ばれてくる。病院惑星の運営は、統合次元体のコアと呼ばれるある種の量子結晶AIの集団の様な組織がたずさわっているが、ここの所の患者の急増と資金難もあり十分な医療体制が整っているとは言い難い状況なのだ。

そんな惑星の中でも、とりわけやばいと言われる医療地域に僕は投入された。僕ことクイはテラ種(天の川銀河の太陽系にある地球を起源とする生命体)で、兄ケイは、サルベージャーで統合世界では、けっこう名の知れた紛争解決集団の一員である。あっちこっちの異世界やら異次元やらを飛び回り、難題を解決しているヒーローなのだが、僕は、生命再生(ヒール)に興味を持ったばっかりに、とてつもなく地味な仕事につく事になってしまった。統合次元体で一通りのカリキュラムをこなしたあと、暫く研修医のような仕事をしてから、フォボスへの赴任が決まり、身の回りの準備をしていたころに、上司から出頭命令が来て、そこで、フォボスでの赴任場所が告げられた。

「ここは、どん詰まりの谷と言われている場所だ。いわゆる終末施設だ。現状での色々な復活、再生措置を施したが、手に負えない病状をもった生命体が収容されている場所だ。

医療施設は、一応あるが、もっぱら、自然治癒を目的とする地域で、惑星のヒールスポットとなっている。」そう言って、上司はプロジェクションを見せてくれた。

それは、僕の起源惑星でいえば、いわゆる湯治場のようなところで、近くの火山から湧き出る温泉とそれに含まれている放射線、そして惑星からの生命エネルギーが谷全体に満ちている場所だった。

「ここの、ボスは白髭と言われている、ちょっと変わり者のベテランヒーラーだ。まあ、自然治癒の第一人者だが、テラ種だからお前と同族だが、かなりの変人だ。」と上司のそっけない説明の後、空間転送で赴任先に転送された。

転送先は、大昔の地球の映像資料で見た事が有るような場所で、緩い谷の中に、かなり立派な病院施設があり、その周りは火山の噴火口の様な状況で、蒸気や硫黄のガスが噴出していて、中央に温泉の川が流れていた。最初に目についたのが、患者達が、それぞれに勝手に掘っ立て小屋を建てて、そこで治療やら療養をしているらしい風景だった。

僕が、川のそばに行くと、患者の一人が、この川にはオリジナルヒールが流れているので、なるべく川のそばで暮らしているとの事だったが、テラ種であれば、硫化水素ガスで死んでしまう位の濃度のガスが漂っていた。

「放射線もかなり強いな!」ぼくは、環境測定用の装置のモニターをみながら一体を少し歩き回ってから、病院の建屋に入った。

病院施設は、クラス5の量子結晶からなるAIが管理していて、ベッド数も多いのだが、殆どが空き部屋だった。AIに医院長の所在を訪ねると、谷に行っているとの事で地図が明示されたので、それなりのシールドを準備して向かってみた。谷の緩やかな崖で白魔導士の様な姿があり、近づくとAIが医院長だと教えてくれた。

「本日赴任しました、クイです。」と挨拶すると

「ほー、」と言ってから

「済まんが、そこの収納ボックスを取ってくれんかの。」と言い

「薬草ならぬ薬苔なんじゃが、量子化してしまうと、生体情報リンクが切れるらしく、効用が無くなってしまうんじゃよ。」といって、岩からむしり取った苔をボックスに入れてから

「ほう、君もテラ種か・・・」と感想らしき言葉と共に、ボックスをAIドローンに乗せると

「それでは、病院にかえるかな。」といって、觔斗雲(きんとうん)の様な雲に乗って移動し始めた。

「ああそうじゃ、ついでだから、この谷を一回りしようかの。」と言いながら僕をその雲の上に乗せると、一瞬にして上空まであがり、眼下に見える谷の容姿を解説し始めた。

「背後にある火山が、この惑星からの源泉ヒールの源じゃよ。知ってはいると思うがこの惑星は三つブラックホールの影響で次元エネルギーが流入してくるらしく、その恩恵でヒール値が高いいんじゃよ。惑星の他の医療施設はそのヒールを凝集したり変質したりして治療に当たっておるが、やっぱり生が一番じゃのう。」と言って、火山の火口まで行くと

「どうじゃ、良い色のマグマだろう、生命に満ちあふれておるじゃろう。」僕は慌ててシールド強化しながら

「一寸危ないじゃないんですか?」

「ああ、火山の管理は、病院のAIのピコが管理しておるから大丈夫じゃ。いざとなれば強制転送プログラムが作動するからのう。」と言って觔斗雲(きんとうん)を移動させ例の川の上流まできた。

「ここの患者はみんな我がままでのう。ちっとも病室にじっとしておらんのじゃ。適当にアバターを作っては、自分の体を運び出し適当な場所に放置しおるわ。」と言って、先ほど見た掘っ立て小屋を示すと、

「大体が、川の周りに集結しておるが、あの患者の様に火口付近に放置する者もおるでな。まあ、クマムシの一族だから熱には強いのじゃろうがな。」

「みんな元気なんじゃないですか?」

「ふむ、精神的には元気なんじゃ。ソールAIに管理されているから、体の苦痛とも隔離されているのでな。いっその事、創成アバターでも作り乗り移って新しい人生だか虫生を始めればよいのじゃがのうが、自分の体には未練があるのか、何だかんだとあがいておる様子じゃな。」病院に戻ると、医院長(老子と僕は呼ぶ事にした)は、僕にある患者を見せた。

「この患者は、最近流行りの球状ウイルスにやられて、気門の周りに炎症がでてな。手は尽くしたんだが、なにせ、5000年も生きてきた体のもんで、先日、命をまっとうしたんだが、ソールAIに居る魂が体に戻ろうとしないのじゃ。まあ、カウンセラー行為だが、一寸面倒をみてやってくれんかの。」と最初の任務が与えられた。

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