帰ってきた

 守護の資格を取るには、地球で生きたことがあるか、それと同等の経験を持っているかである。


 試験場では、時が通常よりも早く流れる空間で、生まれてから死にを擬似体験して、同等の経験を持てるようになる。


    *


 昨日の夜九時ごろ。

 廊下を歩いていると、燿さんを見かけた気がした。


 おかしい。守護神の研修は二週間あって、十九日にならないと帰ってこないのに、今家にいるなんて、私もとうとう幻を見るようになったのか。


 と思い悩んでいると、光命が、


「彼は戻ってきましたよ」


 と言う。


 話を聞くと、燿さんはちょっと特殊な経歴があるのだが、そこを考慮されて五日間で研修を終えて戻ってきたのである。


 話しやすくなったかと思って話しかけていたのだが、布団に転がるなり、疲れたらしくうとうとし始めた。そこへ、奥さんがやってきて、風呂に入れと言うのである。


 娘たちも便乗して、燿さんは連れ出されて、部屋からいなくなった。少し経つと、孔明がやってきた。


「颯ちゃん、講演にボク行ってこようと思う。燿が帰ってきたから、子供たち安心だしね」


 孔明は子供たちの冬休みの間に、他の宇宙へ講演に行くことを決めていたが、燿が守護神の資格を取り終えるまでは、親の数が減ってしまうと待っていたのだ。しかし、予定よりもずいぶん早く帰ってきたので、紅朱凛と一緒に日程を立て直すらしい。


 そんなことをしていると、お風呂から出てきた燿が部屋へ戻ってきた。孔明が街で話しかけただけあって、二人は仲がとてもいい。


 本当に仲がいい。大人の情事が始まってしまうほどに。


 なんでそっちに話が流れるのかな? と思っていると、孔明が、


「だって、人生を何度もやり直したら、経験値が上がってるでしょ。だから、資格をとりに行った後の醍醐味だよ」


 確かにそうだ。燿さんは四百億年生きている。ずいぶん大人だ。しかし、この世界では愛は出会えば永遠。結婚もしておらず、彼女もいない燿さんはバージンなわけで、経験値も圧倒的に少ない。


 守護の資格を取るまでは……。


 そして、旦那たちでお楽しみが始まっているのを背にして、妻は家族がそろってよかったなと思いながら、穏やかな気持ちで眠りにつくのである。


 だがしかし、燿さんとゆっくり話をする暇がなかった。果たして、彼はどんなふうに変わったのか。それとも、どんなことがあっても動じない性格の彼だ。根本的には何も変わらず、守護する手腕だけは素晴らしくなったのか。知りたいものだ。


 2021年1月10日、日曜日

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