第3話 対決



 更に翌日。両軍は激突しますが、ゼウスの命で神々は手出しを禁止され見物するだけでした。が、当のゼウスはというと落雷を落としてギリシャ軍をビビらせていました。勝手なものですね。



 なんにせよ、トロイア軍が優勢のうちに戦いは進み、日没と共に両軍は引きましたが意気盛んなトロイア軍は篝火を炊き、ギリシャ軍がこっそりと逃げるのを見張るという圧倒的差がついてしまいました。


 困ったギリシャ軍はアガメムノン王にアキレウスの戦線復帰を願い出ます。



「え……ワシ、あいつに謝るん?」


「せや、もうそれしか打つ手があらへんやろ」


「いやでもワシ……盛大に啖呵切ってもうたし……」


「んな事言うとる場合ちゃうやろ! 九年もかけて手ぶらか? どの面下げて帰れ言うんや!」



 こうしてアキレウスに頭を下げる事と盛大な贈り物を約束させられたアガメムノン王はオデュッセウスとアイアース、そしてアキレウスが幼い頃に養育の任に当たった老騎士ポイニークスを使者として送りますが、けんもほろろに断られてしまいます。



「あのな、あのボンクラはワシに大恥かかせよったんやぞ! 金輪際アイツのいう事なんぞきいたるもんか! それに考えてもみぃ、人の命ほど大切なもんなんぞあらへん。ちゃっちゃと帰ってあのアホンダラにそう言うたれや!」



 と、取って付けたような綺麗事を言い始めたのです。ここで言う「人の命」とは「自分の命」という事なのかも知れませんね。とにかくこれで交渉は決裂となり、それを聞いたアガメムノン王は一人悶々として夜を明かすのでした。



 翌日も激しい戦闘が続き、一進一退の攻防が繰り広げられます。が、その中でアガメムノン王を始め、オデュッセウスやディオメデスなど主だった武将が負傷し、ギリシャ軍は更なる劣勢に陥っていくのです。


 その頃アキレウスはというと渚に佇み戦の様子を眺めていました。呑気なものですね。折しもそこにネクトールが負傷したマカオーンを運んでいたのでパトロクロスに様子を見に行かせますが、当然ネクトールはブチ切れてしまいます。



「おんどれ等が呑気ぶっこいて戦に参加せんから皆やられてるんやろうが! この薄情もんが!」



 これでパトロクロスの運命も動き出すのでした。


 その間にもギリシャ軍は敗走し、何とか防壁の中に逃げ込むのですが、ゼウスが止めとばかりにヘクトールに加護を与えたものですから、更に勇猛さを増してギリシャ軍に襲い掛かります。ギリシャ軍は舟辺へと壊走。



 これで収まらないのがギリシャ軍を勝たせようとするヘラ。しかし公然とゼウスに逆らう訳にもいきません。そこで色仕掛けでゼウスの気をそらせるのです。ゼウスもまんまと罠にハマり、イチャイチャの一時を過ごすのでした。その隙にポセイドンに使者を走らせ、ギリシャ軍に加勢を頼むのです。さすがのえげつなさですね。



 アイアースがヘクトールを撃退してなんとかトロイア軍を追い返すのですが、そこで我に返ったゼウスはヘラを烈火の如く叱りつけます。ヘラはどうしたかと言うと……しらばっくれてポセイドンに罪を擦り付けるのです。最低ですね。兄ゼウスに叱られたポセイドンは「ワシって一体なんなんや……」と海底にかえり、アポロンはヘクトールに力を与えて復活させます。



 ヘクトールはギリシャ軍の船を奪い火をつけ味方を鼓舞。一方のアイアースも別の船上に立ち味方を激励。船団間近で激戦が繰り広げられるのです。そんな中、義憤に駆られたパトロクロスはアキレウスの甲冑を借り受け味方を糾合して敵陣に切り込みます。獅子奮迅の活躍でサルペドーン(ゼウスとエウローペーの息子)を討ち取り、ヘクトールとの一騎打ちに持ち込むも、アポロンの罠にハマり負けてしまいます。息絶えたパトロクロスから甲冑を剥ぎ取ったヘクトールはテンションが跳ね上がり暴れまわり、ギリシャ軍は劣勢に追い込まれるのでした。悲しいけどこれ、戦争なのよね……。



 ○モ達の死を知ったアキレウスは復讐を誓い、母テティスの制止も聞かず出陣を決意し、翌日は陣頭に立ち暴れまくります。武具はテティスが鍛冶の神ヘパイストスに速攻で作ってもらい届けるという便利な展開。ついでにアガメムノン王とも和解し万全の態勢で戦に臨みます。その中でヘクトールの弟ポリュドロスを、更にまだ若いリュカオンが槍にかけてしまうのです。命乞いするも無慈悲に。



 それを知ったヘクトールも激怒、アキレウスに挑みます。しかしアキレウスにはアテナが、ヘクトールにはアポロンがついています。形勢不利と見るやアポロンはヘクトールを霧で包んで逃がしてしまうのです。



 これで戦況は逆転、勢いを増したギリシャ軍はトロイア城壁に迫るのです。しかしアポロンがトロイアの勇士アゲノールに化けてアキレウスをおびき寄せ、その隙にトロイア軍兵士は城内に逃げ込むのですが、ヘクトールだけは城門の前でアキレウスを待ち構えるのでした。



 ああ、なんということでしょう。アキレウスに一騎打ちを挑むなど自殺行為以外の何物でもありません。アポロンの加護があったからなのでしょうか。



 しかし鬼の形相で迫るアキレウスの姿を見た時、ヘクトールの勇気も吹き飛んでしまいました。チャリオットで逃げ出してしまったのです。逃げるヘクトール。追うアキレウス。その俊足に物を言わせ、城壁の周りを四周したところヘクトールを捉えたのです。幾ら俊足とは言え、自らの脚で馬に追いつくとは……さすが「足の速いアキレウス」と呼ばれるだけありますね。靴メーカーの名前になるのも頷けます。



 そしてこの時運命は決まりました。アポロンはヘクトールを見捨て、アテナはヘクトールの弟デイポポスに化けて「二人掛かりで戦おう」と騙すのです。まんまと乗せられたヘクトールがアキレウスに立ち向かうと横には誰もいません。結局一人で戦う事になり敢え無く討ち死に。チャリオットで引きずられギリシャ陣に運ばれてしまいます。



 パトロクロスの亡骸に復讐を遂げた事を報告すると、アキレウスは満足したのか眠りに落ちます。が、その夢の中ににパトロクロスの霊が現れました。



「ワイの仇を討ってくれたんやな。おおきにな」


「いやいや、他ならぬお前の為や、気にせんでええ」


「そうか……ところで一つ聞きたいんやけど」


「なんや?」


「ワイの亡骸はどないしたん?」


「……」


「……」


「…………」


「…………」


「すまん。忘れとった」


「いや忘れんなや……」


「ワシからの詫びや、盛大に葬ってやるで!」


「いや普通に葬ってくれたらええねん」


「おっしゃ頑張るでぇ!」



 こうして盛大な炎に中に捕虜の首を掻き切って投げ込むというアキレウスの趣味全開な葬儀が執り行われたのでした。そしてその場に将兵を集め、競馬やレスリング等の競技会を開催し、盛大な宴会を催しました。故人を悼んでいるのか、単にバカ騒ぎがしたかったのか、見解が分かれるところですね。



 さてその後もアキレウスは酒を飲んでは○モ達パトロクロスの事を思い出し、ヘクトールの亡骸をチャリオットで引きずり回すという猟奇的行為をやめようとしません。


 これにはさすがの神々もドン引きです。いい加減に止めさせるべく、虹の神イリスの導きでトロイアのプリアモス王が夜陰に紛れてアキレウスの元を訪れ、ヘクトールの亡骸を返してくれと求めるのです。



 ああ、なんということでしょう。敵側の総大将にとって最も警戒すべきはアキレウスです。そんな相手と夜に二人きりで会うなど殺してくれと言っているようなものです。私なら絶対に嫌です。


 ところがあっさりとヘクトールの亡骸を返してしまうのです。流石のアキレウスも神々に逆らう訳にはいかないのでしょうね。案外ヘクトールの亡骸を弄ぶのに飽きただけかも知れませんが。



 なんだかんだで十二日間の休戦を約束して老王はトロイアに帰り、やっとヘクトールを埋葬してやるのでした。



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