ワールドサインを探して

高山満

彼女に天使の羽根はない。

開幕

 気が付けば落ちていた。


「あああああああああぁぁあぁぁあぁぁぁーーーーっ!」

 視界は真っ黒、光源無し。

 パラシュートも命綱もない。フリーハンド、フリースタイル。

 風を切り裂く音だけが聞こえて、手を伸ばせば伸ばし切る前に壁に当たって痛い。落下を始めてから時間は不思議と長く、只々加速していく自分の身体。藻がいてもどうしようもなかった。


「なんだこれ、なんだこれ!」


 このまま地の底で激突して自分は死ぬのだろうか。

 まだなにも始まってないのに。こんなのってありか?!


 バ◯ス! バ◯ス、バ◯ス! バ◯スバ◯スバ◯スぅうう!!!


 ついリア充滅べ、と思うぐらいの思いを込めて滅びの呪文を心の中で連呼する。

 セカイは滅ばない。不思議な光も発生しない。

 視界は暗いままで、落下は止まらない。


 少し前までは荒野にいた。

 土煙で視界の悪い未来を見据えて、ここからオレが始まるのだ、と。それがどうした。

 ナビゲートの指示に従ってダンジョンに向かって進む、ただそれだけだったはずなのに。最初の拠点を出て、荒野を超えて砂漠に入った。そしたら直ぐに、敵と出逢う間も無く、砂に足を取られて流砂に呑まれてこのザマだ。


「あ、あ、あ、あああぁぁぁーーーー」

 タマヒュン、ってする。ヒュンヒュンヒュン、っ何度もするっていうかヒューーーーンッてずっとしてる。やめてこれ、いつ終わるの!?


「いてっ」


 振り回した手が何かに当たる、何か掴んだ。

 真っ暗で見えないからなんだかわからないけれど、これ固くてすこしひんやりする。


『落ち着いてください』


 手触りに気を取られていると、声が聞こえた。柔らかい女性音声。オレを支えるサポートAI、ユニークスキルの『ナビゲート』だ。

『落ち着いて下さい、葛もち。これはラピッドホール。強制移動現象です』

 おそらく何度か声をかけてもらっていただろうが、テンパっていたからか気が付かなかった。ところで、ふむ。なるほど、転移トラップの類いというわけか。

『一定条件の一定確率下で起きる現象です』

「なるほど、つまり」


『運が悪かった』


 AIは事務的に言い切った。

「それで済ますなよ!」

 オレが叫ぶと同時に、着弾を想定して脚を抱えて丸くなっていたケツが何かを貫いた。


「痛ってぇ!」


 明るい、灯かりがある。激しい音がする。これは覚えがある。

「電車?」

『正しくは地下鉄メトロ、狂える夏芽屋メトロです』

 電車の天井を壊して、オレは地下鉄の車両に乗り込んだのだった。




 ちなみに、穴の中で掴んだのはマーマレードの瓶だった。

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 ◇アイテム

【永劫のマーマレード】

 製造日、製作者、不明。

 ラベルは手書きである。

 効果:未鑑定


 桜もち「太陽オレンジと月蓮華の蜂蜜を使って作成できます」

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