バスケ

弱腰ペンギン

バスケ


「へいへいピッチャービビってる!」

 3ON3で田中が俺を煽っている。いやこれバスケなんだわ。高校の体育館で、授業中なんだわ。

 それに突っ立てるだけで煽る奴に向かっていかないんだわ。パスするんだわ。

「おいおい、勝負から逃げんなよ!」

 お前ずっと煽ってるだけなんだわ。棒立ちなんだわ。実質2ON3なんだわ。

 仲間がシュートを決めたので、自陣に戻る。

「へいへい、なにディフェンス戻ってんの! 攻めないと勝てないよ!」

 勝ってるんだわ。80対5で勝ってるんだわ。むしろ2人だけでよく戦ってる方なんだわ。

「へいへいディフェンス、ザルいよ!」

 ここで仲間からのパスが田中に向かう。当然取れない。

「げふぅ!」

 これ絶対イラついてるよなって威力で、ボールは顔面に飛んでった。

「審判、これ反則じゃない? 一発レッドじゃない?」

 ここで審判顔を横に振る。そりゃぁな。お前が取れよって話だよ。

「なーんだよ審判買収されてるよー!」

 そして全員がキレた。

「え?」

 1ON5(審判付き)になった。

「ちょいちょいちょいちょい、なんで仲間が向こうにいってんの! 作戦? そういう作戦なの?」

 俺たちは無言でパスを回し、田中をスルーしてリングへボールを放つ。

「俺も混ぜろよな」

 田中が飛んだ。

 一瞬でゴール下に到達すると、落ちてくるボールを片手でキャッチ。

 びっくりするほどの跳躍力だったが。

「えぇ!? 反則ってなんだよ!」

 落ちてくるボールに触るのは反則なんだわ。

「ちょいちょいちょい、審判買収されてるからってやりすぎー!」

 普通に反則なんだわ。

 フリースローを決めて、5人が自陣に戻る。田中はというと、センターラインからシュートの構え。ただし、フォームはでたらめだ。入るわけが……。

「まったく。シュートが決めやすくて助かるぜ!」

 入った……え、入った!?

「ほら、来いよ!」

 え、え!?

 あまりにびっくりしすぎて全員キョトンとしていた。

 とりあえずボールを拾い、仲間にパスを出す。が、いまだに衝撃が収まらない。

 その隙をつかれた。

「ディフェンスビビってる!」

 ディフェンスはお前だろうといいたかったのだが、すでに田中の手にボールが収まっている。

 いつの間に取ったのだろうか。

 そしてまたもセンターライン付近からでたらめなシュートを放つ。そして入る。

 その後も『いつの間にか奪われ、どこからでもシュートを決められる』というわけのわからない展開が起き続ける。

 そして。

「いやぁ良い運動したぜ!」

 82対95で負けた。

 どういうことだ。あのウザいだけの田中がこんな……。

 審判買収されてるのか!?

 審判のほうを見るが首を振る。そりゃそうか。コートの中は関係ないもんな。

 5対1だぜ。簡単に勝てるはずだろ……。

 そういえば元田中のチームメイトは。

「いえーい!」

 田中と、ハイタッチだと!?

 なんだ、どういうことだ!

「はっはっは。バカが多くて助かったぜ」

 三味線、だと!?

 まさか、あいつら最初から寝返ってなんかいなかったのか!

「試合終了まで俺の演技に気づかなかったな!」

 なんだと!?

「俺の行動はすべて演技さ。バスケの試合中にピッチャービビってるなんて言うわけねえだろう。仲間をイラつかせて裏切られた。そういう設定にしてうまくお前らのところにいく。そしたら後は前線に張り付いてパスをもらう。そして俺が棒立ちの仲間からボールをもらって……おっと、奪ってだな。そのままスリーを決めるだけさ」

 っは!

 そういえば田中のチームメイトは試合中ずっと前にいた。仲間だと思っていたし、普通前線のやつにパスを渡すから……。

「お前らはご丁寧にも相手チームにパスをしてたってわけさ!」

「田中あぁぁぁぁぁ、俺をだましたなぁぁぁぁぁ!」

 田中の高笑いが、体育館に響いていた。

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バスケ 弱腰ペンギン @kuwentorow

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