サイクル
金魚殿
第1話 巡り会う2人
1000年ぶりに会う彼女は、彼になっていた。
まあ、そんな気はしていた。だって、彼女は、彼女であった時から、そんなに女であることをよしとしてなかったから。
「久しぶり、クロスでいいのよね。」
「ああ、久しぶり…ラットでいいのかな。」
本名はもうとうの昔に忘れた。戸籍謄本を見れば思い出せるかもしれないけど、数百年前に捨ててしまった名だから忘れた。嘘、本当は全部覚えてる、けど、忘れないと心が痛むから忘れたことにした。だから私は今ラット。それだけ。
「まさかクロスがまだ公務員してると思わなかった。あの時とは全然違う部署みたいだけど。」
「いや~、本当に世界が歪む前に公務員になっといてよかったよね!半永久的に安定した職でいられるなんてさ!」
結婚制度も、子ども作る義務も全部なくなったし万々歳だよなんて、あの時より幾ばくか精悍で角張った顔が笑う。性別が変わってるということは少なくとも1度は老衰まで生きたのだろうに、記憶はそのままだからだろうか、あの時と変わらず話せるのは心地が良かった。
「懐かしい再会はここまでにして、ここからはお仕事の話をさせてもらうよ。はい、これを。」
人が来るからと丁寧に磨いたガラステーブルに置かれたタブレットをスクロールする。そこに並ぶのはなかなかにショッキングな言葉ばかりだ。
「うわぁ、殺人、放火、強姦etc…ああ、こっちは被害者か、酷いことをするねぇ人間は。」
まあ、私も人間なんだけど、と、何度も口にした言葉は言わなくてもわかるだろうからしまう。
「で、どの人がいい?どの人でも手配するよ!俺なんだかんだ古株だからさ~、ラットのためなら誰でも用意するよ!」
「愛されてるなぁ、じゃあこの1番不味そうなやつにして。」
「アハッ、悪趣味。」
私はラット、雑食のラット。
だからなんでも食べられる。
「私とってもいい料理人が友達だから、食材が不味くてもいいんだよ。私のために私と子どもを育てるために“彼”が工夫してくれるもの。」
“食材”が決まったことを彼に伝えなきゃ。
次の“子ども”が決まったことも一緒に。
最近2人きりが長かったから、ほんの少し寂しくなるかもしれない。ああ、だから、今日からはいつもよりたくさん愛してもらおう。子離れまでは2人だけで愛し合う時間は少なくなってしまうから。
「まさか、あの優しくて良心的などのが、ネズが、酔狂なイーターになっていたなんて思わなかったなぁ。またしばらく一緒にいれそうだし、楽しみ。」
歪んだ世界でまた出逢えた2人の話。
サイクル 金魚殿 @Dono-Kingyo
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