狩人バニー
雪見なつ
第1話
「この近くにユニコーンがいるかもしれない」
緑のローブを羽織り、自然の中に溶け込む服装をしている男がしゃがみ込んで、地面を見ている。彼は背中に弓を背負っている。彼の名はバニー。はっきりとした年齢はわからないが、見た目は二十歳になったばかりと言った感じでまだ若さが顔から滲み出ている。
バニーの見つめる地面には十センチほどの蹄の跡があった。その蹄の跡はまだ真新しかった。
「いいじゃねぇか。早速狩ろうぜ!」
「あんまりはしゃいじゃダメよ」
バニーの後ろで二人の男女が談笑している。男の名はラグ。背中に西洋剣を背負っている。顔立ちから年齢は十代であると思われる。女性の方はナグ。片手に杖を持っている。服装はその杖と相反している鎧を身に纏っている。そして、彼女も年齢不詳。見た目からラグと同い年くらいだろう。
彼ら三人はスラム育ちで、親というものを知らずに育った。スラムの人たちは皆、明日を生きるのに必死だ。三人も一緒だ。
スラムの人たちは必死に働いてお金を稼いだが、あまり稼ぎは多くなかった。そこで、彼らは狩りを始めるようになる。魔獣の皮や爪は高価で取引される。スラムの人たちはそれに目をつけた。だが、それは簡単にお金を稼ぐ方法ではなかった。狩りに出て命を落とすものも少なくない。それでも彼らは必死にお金を稼いだ。
それは王都にとってとても都合の良いことだった。危険な魔獣の素材を安全に入手することができ、スラムの人たちはその価値をあまり理解していないので流通している値段よりも安く手に入れられることができる。それに劣悪環境にいるスラムの人口が減れば治安は良くなり、王都の民たちからの不安の声も減っていく。王都の民は薄ら笑いでスラムの人を利用していた。
それを知らずにスラムの人たちは今日も命を危険に晒し、狩りを続けた。
ユニコーンを追う三人も王都に利用される駒に過ぎなかった。
バニーは森に姿を隠しながらユニコーンの蹄の後を追った。泥濘む地面に足を取られながらその後を追う。草木を掻き分けて、通った木にバッテン印のマークをつけながら一歩ずつ慎重に警戒しながら、前に進む。
「シーっ」
バニーは右手で二人に止まれの合図を送る。それと同時に二人は姿勢を低くして草に身を隠した。
バニーが見つめる先には、目当てのユニコーンが湖の辺りで店を見上げている。
ユニコーンの白い毛は陽の光を浴びてキラキラと輝き、額から生える一本のツノは鋭く尖っている。引き締まった足と大きな体躯。それは黄金比を描き見るものを魅了した。ユニコーンと湖と陽の光。画家が見ればすぐに筆を取り出してキャンパスにその情景を描き始めるだろう、その光景にバニーは唾を飲んだ。
それは美しさ反面、恐怖もあった。
あまりに美しいそいつは、スラムの人たちを何人も殺している。その綺麗なツノと、引き締まった脚は人を殺すには十分だ。しかも、それだけではない。ユニコーンはそのツノに魔力を持ち、風の魔法を使うとされている。その魔法の風に触れた人たちは無残に切られて死ぬ。バニーたちはその死体を見た時がある。それは吐き気を催すほどに酷い状態だった。
バニーは背負っていた弓をゆっくりと下ろした。きりりとゆっくり弓を引き、一発放つ。それが戦闘の合図だ。
バニーの放った矢はユニコーンの左太腿に刺さった。怒りにユニコーンはバニーに突進を噛ます。それは普通の突進よりも迫力がある。ビュンビュンと音を立てて、そのツノをバニー目掛けて突く。十メートルはあった距離を一瞬で詰めてきた。
間一髪でその攻撃を避けたバニーだったがすぐに違和感を感じる。ただの突進なのに、着ていたローブは裂け布切れになり、周りの草木も切られ宙に待っている。
「くそ。確かに避けたはずなのに。これが風の魔法なのか!」
剣を抜いたラグはユニコーンの首目掛けて剣を振り下ろした。しかし、それはユニコーンの首に届く前に止まる。
どれだけ力を入れて押し込んでもそれ以上届かない。
それはユニコーンの頭部を守るように風が舞っていて、頭部を狙う物理攻撃は何一つ通さない。
「離れろ、ラグー!」
ユニコーンは首を大きく左右に振った。ただ振っただけだ。それなのにラグの体は中を飛び六メートル以上の距離を飛ばされた。ラグの体が森の奥に消えていく。
バニーは強く弓を引いて、矢を飛ばす。矢はユニコーンの足に刺さる。何度も何度も矢を放つ。矢は何本もユニコーンの足に刺さっていく。
「ウオオオオオオオオオオオ」
ユニコーンは怒り狂い、空に吠えた。馬が吠える姿など想像もできないだろうが、ユニコーンはまるで狼のように空に吠えたのだ。
木を切り倒しながら、バニーの突進をする。バニーは風に押され中へと飛ばされてしまう。ローブの下に来ていた鉄の鎧がボロボロに砕けていた。
「まだ生きているぜええええ」
森の影から剣を持ったラグが駆けてくる。そして大きな一撃を振り下ろす。それはユニコーンの足を切った。ユニコーンは少しよろけた。
「「今だ! やれ、ナグゥゥゥ‼︎」」
バニーとラグは叫んだ。
バサっと草が揺れる。
身を隠していたナグが飛び出て、杖を振りかざした。
杖から青白い閃光と共に、雷撃が一直にユニコーンに向かって放たれる。ユニコーンはそれに反応することができずに直撃。膝を崩した。
それにとどめを刺すようにラグが剣を構えた。
しかし、ユニコーンは最後の力を振り絞り風を巻く。近くにいたラグはまた吹き飛ばされた。
ユニコーンは即座に起き上がり、森の中を風のように駆けた。本当にそれは風のようで木々の間を縫って走る。
「バニー追って!」
レグの杖から青い光が出て、それの光はバニーの体を包んだ。それと同時に宙にいたバニーは木を蹴り、弾丸のような速度でユニコーンに迫る。
木から木へと移って後を追う。その速さはユニコーンを超えた。
「やっと追いついた」
ユニコーンの上を並走して、バニーは弓を引いた。
バニーの放った矢はユニコーンの足に刺さる。ユニコーンは大きく体勢を崩し、目の前の木にぶつかった。
葉っぱがチラチラと舞った。
バニーを覆っていた光が消えて、いつもの速度に戻る。
ユニコーンは木にぶつかった衝撃で気を失ったようだ。その間にラグはユニコーンの首を落とした。
「今日のご飯は馬肉だな」
ラグはにっこりと笑った。
狩人バニー 雪見なつ @yukimi_summer
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