僕にだけ、人の夢が具現化して見えたら
久代 李月
第1話 世界に泣かされる前に
音楽に泣かされるのは何回目だろう。僕は、水溜りに移る赤信号を見つめ、ため息をついた。傘を持たずに佇む僕は他から見たら、惨めな若者だろう。ほら、僕の背中に誇らしい感じでいるこのギターも言ってる。「君みたいなのに背負われるのは屈辱だ」って。制服のネクタイは水分を含んで重くなり、乱れた髪からは水滴が流れ落ちる。
早く、早く青になれ!ここから逃れないと、僕は自分が嫌いになる!そう思った矢先、歩行者ランプは青になり僕は早歩きでそこを通過する。早歩きで家に帰る。周りのことなんて見えない。僕が見てるのは帰り道の足場だけ。
家に帰ると、ずぶ濡れの僕を見た姉は驚いた顔をした。タオルを無造作に投げ、風呂に入ることを促す。僕は姉の指示通り、風呂に入った。風呂を上がり、自室に入ると、やっと帰ってきた。と改めて思うことができた。ベッドに寝転がり、何もない天井を見つめる。ここで、今日の辛いことを全部吐き出してしまいたくなった。「才能がない」そのことを言われた時。言い訳がたくさん浮かんだ。「遊びでやってることだし」「才能なんかなくても、好きだってことが大事だよ」数々の言い訳が具現化して殺風景な天井にフヨフヨ浮く。
なんてことはなく、それらは僕の中の深いところで渦巻いているだけだ。絶叫したくなった。不満も全部乗せて。しかし、今叫び声をあげたら、下でラブコメを見ている姉が激怒して僕を粛正しにくるからやめといた。よし、寝よう、忘れよう。
唐突にポジティブになって、眠りにつく。そこで一つ、願い事をした。才能なんてなくなれよ。
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