五條遊郭

@taketake464111165259

第1話

私は元々滋賀県民。だから京都市でタクシーに乗ってる時も出来るだけ得意な滋賀県や山科区へ行けるように祇園や木屋町で客待ちする時はいつも東向き。その日の21時、四条木屋町リプトン前でドアを開けて待っていた。少し酔ったお年寄り?が乗ってきてくれて〇〇まで。

えー逆方向!でもまあ、京都の街は右に曲がって右に曲がるとロスも少なくて、お客さんにもあんまり怒られない。

「川端通りを下がって五条から西に行きますね」「それで頼みます」

人によって車の走り方も違う。私は面倒でもお客さんに道は聞く。時々それで怒られる事もあったけど大概はニコニコしながら好みの道を教えてくれる。それもサービス業!しかも良い酔い方をされてるお客さんは大歓迎!お客さんも楽しく!私も楽しく!お供できればお客さんも帰って後もいい気持ち!さて今夜のお客さん、楽しんで呑んで来られたかな?

五条大橋を西へと舵をきり、さーてどこで曲がる?なんて考えてた頃、ふと左斜め後ろのお客さんに視線をやると五条大橋の西詰、何故か手を合わせて下を向いてるお客さん、、、どうしたんですか?何かあったんですか?え?俺なんかした?少し沈黙。烏丸五条を越えたあたり。「お客さん、どこから南に行きますか?」「西大路からでええよ」

私は気になっている五条大橋西詰での事を聞いてみた。

「なごなるんやけどな。昔僕の姉さんがあそこで亡くなってるんや。五条遊郭てあったやろ?あそこで水銀のまされてなあ、、、。」

噂は聞いたことある。五条遊郭。話を聞いた事はある。でも水銀?なんで?そんなんのんだら絶対死ぬやん、、、

「僕が幼い頃や。うちは百姓やっててな、その年は凄い日照りで雨が降らへん。結局コメもできんでな、もう一家で心中なんて事になりそうやったんや。その時な姉さんが私が遊郭に働きにいく。だから弟や妹達にはご飯食べさせてあげて。て言うて女衒さんに売られて行った。だから僕らは今幸せに生きてられるんや、、、。」

しばらく時間があいて

「姉さんかな、売られていった後、いつやったか派手な格好して姉さん帰ってきてな、俺らに小遣いくれたんや。10銭札10枚ずつ。嬉しくてな、僕も含めた兄妹達で商店行って飴玉買ってずーっと舐めてた。ラムネ買ってる兄ちゃんもいたわ。美味しかったなぁ。忘れられへんで。でもな帰ったら姉さん、泣いてるんや。父ちゃんも怒ってるし、僕もどうしたらええかわからへんねん。姉さんとはそれっきりや。後で父ちゃんから聞いたんやけど、姉さん子供ができてんやって。遊郭の近くに住んでた若い奴との子供や。て言っても遊郭勤めや、誰の子ぉかわからへん。それでもその若い奴は俺の子や言うて、姉さん身請けしてその子も育てるんや言うてくれたんや。やけどその若いんも金なんかあらへん。金得る為に為になんでもしたそうや。スリ、空き巣、かっぱらい。なんでもしたそうや。それでも身請けするほど金はたまらん。それで姉さんと駆け落ちすることにしたらしいんや。でも見つかってな、、姉さんは子供おろす為に水銀のまされてな、ほいで死んでしもたんや。若い奴も今まで稼いだ金をうちに届けた後、首吊ってな。

何が悪かったんかな?惚れた相手と一緒にもなれへんだあの時代が悪かったんかな、、、」

爺さんは車を降りた。


私もあの場所に遊郭があった事は知っている。初めてその事を聞いた時はドキドキしたものだ。でも何故だろう、その日は無性に哀しく、辛かった。

車を降りてタバコを吸いながら姉さんと若い人を想った。でも星は何も知らずにまたたいていた。

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