第42話 旧友の来訪①

「おおー! ここが『トワイライト』のギルドハウスなのかー!!」


 スゥが両手を上げて飛び跳ねる。

 その様子をみて、ロルフはくすりと笑った。


 初の遠征は無事に終了し、一行はギルドハウスへと戻ってきた。

 いくつかトラブルもあり、予定より一日長引いてしまったが、クエストは無事達成し、強力な新メンバーまで獲得。

 結果的には大成功だったと言えるだろう。


「なーんか、ずいぶん久しぶりに帰ってきたような気がするわ。」

「あはは。ここ数日、色々あったもんねぇ。」

「キュイ!」


 リーシャとエトも、なんとなく感慨深いような顔をしている。

 シロは……まあ、いつも通りか。


「でも、エトが言ってたほどは大きくなかったのだ。普通くらいじゃないのだ?」

「あ、ちなみにここ、元はロルフさんのお家だったんだよ。」

「ええ……それはありえんデカさなのだ……」

「はっはっは。貰った家だけどな。」

「貰った?! 家って貰うことあるのだ?!」

「あー、私もやったわ、そのやりとり……」


 談笑しながら、改めて、その家を見上げる。


 当時は完全に無用の長物だと思ったものだが、今は本当にこの場所があってよかったと思う。

 さすがに、これを見越して譲ったわけでは無いと思うが――


「……ユーリには、いつか礼を言わなきゃな。」


 ロルフは玄関を開け、そう小さく呟いた。


「ん? 遠慮するな、今でもいいぞ。」

「……」


 ロルフは、とりあえず一度、ドアを閉めた。



+++



 エト、リーシャ、スゥ、そしてロルフと、その知り合いらしきユーリという男性は、居間のテーブルに座っていた。


 なんでも、そのユーリから、全員に聞いてほしい話があるとのことだ。

 ただ、ロルフの話に『ユーリ』という名前が出てきたことはないので、今の時点では何の話か、想像もつかない。


「で、なんで勝手に家に入ってるんだ、お前は。」

「そりゃ、鍵を変えてなかったからだな。前の鍵で普通に開いたぞ。」

「方法じゃない! 理由だ、理由!」


 しかし、先ほどから話しているのを見る限り、だいぶ仲は良さそうだ。

 年齢も同じくらいに見えるし、昔からの知り合いなのかもしれない。


 スゥがこちらに顔を寄せてくる。


「ねえ、あれは誰なのだ?」

「うーん、私たちも、知らない人かなぁ。」

「とりあえず、ロルフの友人みたいね。ただ……」


 リーシャは何かを思い出そうとするように、首をひねった。


「なんか、どっかで見たことがあるような気がするのよね……」


 その言葉を聞いて、改めてユーリの顔を見る。

 確かに、言われてみれば、どこかで見たことがあるような……ないような……。


 すると、そんなこちらの様子を見てか、ユーリは少し意外そうな顔をした。


「なんだロルフ、俺のことは説明してなかったのか?」


 それに対して、ロルフはやれやれと肩を落とした。


「あのな。数ある知り合いの中でも、お前が一番説明しにくいんだぞ。」

「ぷはは、それは一理あるな。」


 ロルフはそのままこちらを向いて、片手でユーリを示し、軽く咳払いをした。


「あー……そのだな、こいつは……いや、この人は――」

「おっと、待て、ロルフ。」


 が、ユーリはそのロルフの説明を、手で遮った。

 そしてにやりと微笑むと、代わりに話し始めた。


「エトに、リーシャに、スゥだったな。初めまして、ユーリだ。ロルフとは昔、一緒にパーティーを組んでいてな。今は冒険者を引退して、役所仕事をしてるんだ。」


 おお、と三人から歓声が上がる。


「ロルフさんの、パーティーメンバー……!」

「なるほど……どうりで仲がいいわけね。」

「つまりは、戦友なのだー!」


 三人が盛り上がる他所で、ロルフはじとりと視線を送った。


「役所仕事って、お前なあ……」

「ふふ、嘘はついてないだろ?」


 ユーリはいたずらっぽく笑うと、そのまま立ち上がった。

 手を軽くたたき、全員の視線を集中させる。


「さて、そろそろ本題といくか。全員に聞いてもらいたい話というのは、君たちが体験した――『遺跡』での出来事についてだ。」

「……!」


 意識せずとも、リーシャと目が合う。


 あの時、遺跡で発動した、謎の転移魔法。

 その先に見た、未探索の遺跡。

 沢山の大きな魔石、動く巨像の一撃――そして、黒い稲妻。


 今でも、ついさっきのことのように思い出せる。

 夢でも見ていたかのようで、間違いなく現実でもあった、その出来事を。



「……お前が直接来たってことは、単なる事実確認……ってわけじゃ、なさそうだな。」


 ロルフの声にも、緊張の色が感じ取れる。

 その言葉に対し、ユーリは小さく頷いた。


「先に言っておくが、俺は今回の件について、一切が真実だと考えている。信憑性の問題ではないことを念頭に置いてくれ。その上で――」


 ユーリは一呼吸置くと、ロルフからの手紙を取り出し、テーブルの上に置いた。


「この事実を、秘匿させてほしい。」

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