第2話 未明の雪道を囲み屋敷へ



 提灯を翳す陣内と共に、1尺余り積もった雪道をどのように急いだのか……。


 先夕、出仕する前は、いつもどおり、木曽漆の汁椀と飯椀、高遠焼きの皿の干鱈ひだら、小皿の野沢菜漬けの夕餉を、美味そうに平らげていた健啖家の兄がまさか……。


 小梢は、いつか星野家へ遊びに来たときの陣内の話を思い返していた。


「口さがない世間は、尻軽女のお守り役とか何とか、面白おかしく揶揄やゆしたがりますが、なかなかこれで骨が折れるお務めでござりまするわ。花のお江戸から、かような田舎に不似合いな艶聞を持ちこんで来た女罪人をひと目見ようと、囲み屋敷のまわりを彷徨うろつ胡乱うろんやからがあとを絶ちませぬゆえ」


 急坂に息を弾ませながら小梢は、飯に混じった小石のような違和感を覚えていた。


 ――兄上は本当に、さような下衆げすに討たれたのであろうか。


 城下を貫く一本道。


 その先に、内藤伊賀守頼卿ないとういがのかみよりのりが住む高遠城の天守が聳えている。

 法幢院曲輪ほうどういんぐるわから南曲輪、笹曲輪、勘助曲輪かんすけぐるわを経て、本丸から二ノ丸へ。

 抜けると、絵島の囲み屋敷を置く三ノ丸だった。

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