絵島の守りびと🌸花畑衆
上月くるを
第1話 プロローグ
享保5年1月1日(1720年2月8日)丑の刻。
「星野さま、小梢どの。お出会え召され。
寒中の夜陰をつんざく雄叫びは、兄・徹之助と
「小梢どの。一刻も早くお出かけくだされ。徹之助どのが、賊にやられました!」
力任せに門を叩く陣内は、城下中が覚めよとばかりに胴間声を張り上げている。
すっぽりくるまっていた分厚い
*
いまを去る5年前、幕府からの預かり罪人として、
とつぜんのことだったので、当初は高遠城より1里ほど山奥にある
そのとき、小梢より5歳年長の兄・徹之助は、
*
鋭く目を血走らせた陣内は、降りしきる雪に頭から塗れている。
「陣内さま。いったい何事にございますか、かような時刻に!」
小梢の乾いた口から、巣を守る牝狼のような絶叫がほとばしる。
「たったいま賊が囲み屋敷に侵入し、徹之助が凶刃に倒れました!」
「で、兄上のご容体は如何に?」
まだるっこしげに小梢が畳みこむと、
「無念ながら、拙者が駆けつけたときはもはや……」
素早く目を逸らせた陣内は、なぜか語尾を
「そんな馬鹿な! 夕刻まであれほどお元気だったのに」
「拙者がついていながら、まことに申し訳ござりませぬ」
「なにゆえに、兄上が?! 兄上ー、兄上ー、兄上ー!」
夜空に向けて咆哮する小梢の頬を、針のような粉雪が容赦なく突き刺してゆく。
昨日の夕方、夜勤で出仕する際、いつものように2食分の弁当を渡すと、上がり
「小梢。いつもかたじけないな。これからも母上のこと、よろしく頼むぞ」
いつになく真剣な口調で言い置いたが、あれは何かの予兆だったのでは?
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