第17話 頭がピンクの夫

 私を抱えて戻る最中も夫はいつもと少し様子が違う。私もそれなりにドキドキする。


「痛くない?」

 と怪我の具合を聞くと


「心臓がおかしいです……」

 と困ったように言う。


「あ、怪我のことですか?さっきひと眠りしたからだいぶ良いです。薬湯に浸かったら大丈夫ですから、竜族は回復力早いですからね」


「良かったわ」

 と言うと嬉しそうに笑う。


 家に帰るとマイルズさんとアマンダさんが心配して出て来た。


「旦那様!奥様!無事で!!」


「あの番女は?」

 とマイルズさんは少し怒っている。


「お帰りいただいたよ。もう彼女を家に入れないで欲しい。また来ると言ってたけど、私はあの番女を見ても何もときめくことはなかったし、あれは一種の催眠だ」


「どういうことです??」

 とマイルズさんが眉を吊り上げる。

 事情を説明し、いんちきお告げ竜のことを言うと


「なんと!そんな商売をして騙すとは!許せんな!!」


「王子にも後ほど報告はしようと思います」


「旦那様…直ぐに薬湯の用意をします。直ぐに治るとはいえ結構やられましたな」


「女と言えども竜化すると半端なく強いですからね…」

 と言った。それから私は着替えてご飯をいただいているとほこほこしたクレイグがやってきた。

 既に晩だし一緒に食事を取ることにしたが彼は私の隣に座る。


「おやおやこれは…」

 と微笑み、アマンダとマイルズさんが下がった。ええ?


「すみません…時間が惜しいから…少しでもジュリエットさんと共に居たくて……私がイケメンでなくてすみません!そんなに金持ちでもないけど…私は…ジュリエットさんをー…」

 と照れてモジモジしているから私は夫の口にお肉をガボッと入れてやった。


「モゴー…」

 とまた苦しそうだ。

 しかし何とかゴクリと飲み込んだ。


「あーんする時は言ってください!喉に詰まっちゃいます!」

 布で口を拭きながら言う。


「だって…こんな近くで恥ずかしいことを言おうとしたでしょ!?今食事中よ!!?」


「す、すみません…!!」

 と普通に食べ出した。しかし緊張してるのか手が震えてスープがガチャガチャと溢れていた!


「だ、大丈夫??」


「は、はい!何かこんな…仕事以外のことで頭がジュリエットさんでいっぱいになるのはおかしいと思うので気にしないでください!!」

 とガチャガチャ溢しながら食べていた。


 夕食が終わってやっと休めるな。今日はいろいろあったわ…洞窟内で巨大な竜同士が戦い始めた時は岩に隠れて巻き込まれないようにするのが手一杯よ。普通の人間の私なんか竜に簡単に捻り潰されてもおかしくないもんね。


 寝巻きに着替えると夫がやってきた。赤い顔をしてソワソワしている。まさか!子作りしたいんか!?それはまだ早いと思うよ!!

 しかし私に近付き額にチュッとキスを落とすと彼はさっさとソファーに行こうとしたから


「こらこら、怪我人はベッド!」

 と引き止めると…今度はギュッとされた。ふあん!!な、何!?


 何か妙に熱っぽく見てくるなぁ。赤い細い目が私を捉えていた。と思ったらクレイグは本当に熱い。ばっと額に手をやると…


「ちょっと!本当に熱があるわよ!?」

 と言うとポーッとして


「あれ?そんなことは??」

 きっと傷付いたりして疲れたりしたからだ!!

 私がお水と薬を取ってくると


「ありがとうございます…」


「いちいちお礼言わなくてもいいわ。夫婦なんだし!」


「ジュリエットさん優しい…す、すす好きです!」

 と手にキスされた。


「判ったからもう安静にして!!」

 こっちが恥ずかしくなるわ!!


「ち、違うかもしれないこれ…」

 ??

 何がだろう??


「何が違うの??」


「じ、実は…竜族は本来なら獣でして…一般的に恋に落ちると普段より体温が熱くなるんです…そそそ、そのう…た、 大変に申し訳ない事ですけど…」

 とゴニョゴニョ言ってるので


「何?はっきり言って?隠し事はなし!」

 と言うと真っ赤になり言った。


「ジュリエットさんに…私…は、はは」

 は?


「発情してます!!」

 と言い、一瞬シーンとした。発情!!?

 あの??発情よね?


 すると彼は震えて

「ううう!!こんな事は初めてなんです!!他の竜族が発情期の時は白けた目で見ていましたがこんなになるとは思わず!!」


「何それ??他に今まで好きな女は居なかったの??」


「は、はい!仕事人間だったので!!ああ!どうしよう!何だこの私の頭を支配するピンクは!!もうダメです!!私…このままだとジュリエットさんを無理矢理…うう!わあああ!!」

 と真っ赤になりながら夫は部屋を飛び出した!!


 残された私はポカーンとしたが普通に寝ることにした。私も今日は疲れてたからぐっすりと眠った。


 *


 部屋から逃げ出して庭を少し散歩して頭を冷やす。まさか私が恋に落ち発情期に入るとは思わず…。早い人は12歳頃から発情期に入るが私は友人達が発情しているのを見てなんとも言えない白けた気持ちで観察していた。


 発情期はアホになる!

 とさえ思っていた。とにかく友人は好きな女の子のことを延々と語り、その子の近くで匂いを嗅ぎ周り積極的に迫り口説いていた。そのどの台詞もアホじゃないかと思うくらい甘ったるく、普段の彼とは想像もつかない程だ。


 まぁリオン王子のことなんですけどね!

 普段のリオン王子はクールそのものでモテていたが…フィリス様と出会い年頃になると発情期を迎えられた。


 クールな彼はとんでもなく真面目に子作り教育をギラつきながら聞いておりメモしていた。それからフィリス様の周りをうろちょろし、フィリス様もリオン王子のことを意識し始めたようでそれから2人は仲良くなったようだ。


「発情期とは抗えんな…。フィリスが他の男と話しただけで殺したくなるし、もうフィリス無しでは生きられん!!俺はおかしくなった!!…クレイグ…お前も気を付けろよ…理性を保つのが精一杯だぞ!なんせ視界に入っただけで狂おしいほど好きになる!!」

 とか前に言ってて何だその惚気は。

 私は仕事に恋するからいいやー。とか考えて自分の事は放置状態であった!!


「ちゃんと恋について勉強しておけば…いや一般教養はあるけど!私自身恋するのも初めてだし!!」

 と頭を抱えて仕方なく深夜の寝室に戻ると既に彼女はぐっすり気持ちいいくらい寝ていた。

 ソッと近付き髪と頰と手にいつの間にかキスしていてハッとなった。


 何だこの自然な流れは!!?

 別にキスしなくとも良かったろう!

 お、恐ろしい!!…ジュリエットさん可愛い!!


 ダメだ!しっかりしろ!!

 とソファーにボフリと潜る。あああ!発情期はいつ治るのだ!?

 明日本を読もう!!

 と眠り込んだが朝起きて直ぐに本を手にすると発情期を抑える方法は直ぐに子作りするか1週間以上顔も見ずに匂いも嗅がない場所に移動し耐える事だと書いてある。


 絶望だ!1週間もジュリエットさんと離れるとか!無理!離れたくない!恐ろしい!!発情期!!


「おはよう!クレイグさん」

 と彼女が起きて本を慌てて仕舞うと


「何?」

 とにこりと微笑むから胸が苦しくなり私は…


「すみません!!私ちょっと実家に1週間程帰ります!!」

 と言っていた!!

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