第8話 母方の祖父母ってどんな人?

「それじゃ、リオ、今度は、アタシの両親について教えていくね」


「うん。よろしくね、母ちゃん」


 俺は母の声に反応して、父から母に体を向け挨拶をする。


「私の父は[キース]と言うだよ。純血妖精種のウンディア族なのよ。今年87歳になったけど、アランお義父さんと同様に現役の冒険者をしているわ」


 母は、自身の青髪を弄りながら説明をする。


「純血妖精種って……意外と多いんだね。ミンク婆ちゃんも純血妖精種だし」


「(ミンク婆ちゃんも純血妖精種である事から、実は意外と多いのかな?)」


「そうでも無いわよ。純血妖精種って基本的に隠れ里から出て来ないらしいわ。他種族の人とあまり、関わりを持とうとしないからね。


 基本的に隠れ里から出てくる人は、ミンクお義母さんには悪いけど、父さんも含めて変人だしね」


 母は、左手を口元に当てて苦笑する。


「まぁ、そうなるの……かなぁ?」


 俺は、実際に会っていないので、なんとも言えない表情なる。


「次は、私の母について教えるね。母は[アリア]と言うわ。アランお義父さんと同じく、人間種パーソン族なのよ。今年58歳になる、元男爵令嬢で現役の薬師なのよ」


「ええっ!? 元とは言え婆ちゃんって貴族なの!?」


 俺は人生で初めての貴族が、自分の祖母だった事に驚いた。そして、思わずテーブルから身を乗り出す。


「ええ、そうよ。でも、母さんが言うには、実家の男爵家はお取り潰しになってもう無いらしいわ。母も当時4姉妹の末っ子だから、どの道、アタシ等には関係ないわ」


 母は右人差し指で右頬をかきながら言う。


「えっ? お取りつぶしって……。何か、悪い事でもやったの?」


「いいえ、違うって言っていたわ。アタシも母から聞いた事だから、本当かどうか調べていない事だけど……聞く?」


 母も自信なさげな表情になり、首を傾げながらそれでも聞くかどうか俺に尋ねた。


「うん、それでもよいよ。俺、色んなことが知りたい。母ちゃん、教えて」


「分かったわ。母の生家であるサマナヒルダ元男爵家は、貴族の中では、裕福では無かった家だったそうよ。でも、昔からある存続していた、伝統ある家だそうよ」


「サマナヒルダ男爵家って……この国の貴族だったの? それとも他国の貴族?」


「確か……この国よ。王都から見て、西の方にあったって聞いたわ」


 家の中で壁しかないけど、母は右の方を指差した。


「ヘェ〜そんな遠くから来たのかぁ」


「それでね、母は私の祖母の影響で、リオと同じくらいの年齢の6歳から、薬師に興味があったそうよ」


「影響?」


「ええ、母さんの母さん、アタシにとって祖母に当たる人が元平民で、薬師をしていたそうよ。その人から影響を受けたって聞いたわ」


「ヘェ〜でも、貴族女の子ってなんか……こう……そう言うのは絶対禁止! 他の貴族のお嫁さんになる為に花嫁修行をするって聞いた事が、あるけど違うの?」


 正直俺のイメージでは、令嬢とは煌びやかな世界で戦う人達だったので、少し衝撃を受けた。


「そうね。普通の貴族家なら、そうしていたらしいわ。でも、この男爵家の経済……お金が足らなくて、上手くいかなかったそうよ。


 それで、母も貴族令嬢としてではなく、薬師として生きたいと言う思いもあって、薬師や自衛の教育されたそうよ」


「んっ? それなら、なんで潰れちゃったのさ? やっぱりお金?」


「ううん、違うわ。なんかね……母さんが15歳の頃に、当時サマナヒルダ男爵家と取引をしていた商人が、他の男爵家と共謀し、罠に嵌められて借金を背負ったそうよ」


「うわぁ……えげつないなぁ」


 俺は顔を引き攣りながら、祖母の生家に同情した。


「何とか、サマナヒルダ男爵家や叔母さん達の伝で、借金を返済出来たらしいわ。でも、国から領地監督不能と判断されて、爵位を剥奪されたサマナヒルダ家は、お取りつぶしになったわ」


 母も俺と同じ様なのか何度も頷きながら言う。


「それから……どうなったの?」


「祖父は冒険者として、祖母は薬師として、叔母さん達が嫁いだ領地で暮らしたそうよ。母はそのまま、冒険者になりながら薬師として、コツコツと商売をしたそうよ」


「……あれっ? えーっと、サマナヒルダ家を嵌めた人達は?」


 俺は、肝心の実行犯がどうなったか、気になり質問する。


「ええっと……実行犯である商人と当時のクリフィリナ男爵家当主夫妻は投獄。両家と隣接して長女の叔母さんが嫁いだシルダート男爵家が、領地を合併して、子爵位に繰り上がり治めているそうよ。何でかは、アタシも知らないけどね」


 母は両肩をすくめた。


「ヘェ〜凄い人生だなぁ。んじゃ、その後にキース爺ちゃん?に会うんだね」


「そうよ。それじゃあ、父さんについて説明するね」


「お願いします。」


 祖母の話を一旦区切った母に、俺は再度お辞儀をする。


「アタシの父は、幼少期からウンディア族の隠れ里の中でも、飛び抜けて優秀だったらしいわ。自分なら御伽噺に出てくる賢者を超えられると信じて止まない、自信家だったって母から聞いたわ」


「えっ? "聞いたわ"って今は違うの?」


「少なくても……アタシは、そんな印象は無いと思っているわ。普通に努力して、裏付けされた自信を持っているってだけで、驕りや油断は、見たことないかな?」


「そうなんだぁ。それなら、えーっと……キース爺ちゃんの魔法ってそんなに凄いの?」


 天才や神童には、明確な基準がない。その為に俺は、少し懐疑的な視線を母に浴びさせる。


「まぁ……アタシも魔法を使う身だから、身贔屓無しで言うけどね。冗談として、笑えないくらいには凄いかな。正直、父の弟子になったけど、彼より凄い魔法使いは、見た事ないなぁ」


 そんな母も右手で左肩を揉む仕草をすると、遠くの景色を見ながら修業時代を思い出す。


「そりゃ、凄いわけだ」


「うん、それね。父は、隠れ里を飛び出し冒険者になるとその才覚を発揮したそうだわ。迷宮を普通は、一団(パーティー)と言う集団を組んで、探索するのよ。


 でも、父はIランクとHランクの迷宮を単独で探索した伝説を残したそうだよ。頭がおかしいよね」


 母はから笑いをする。


「スッゲー」


 そんな母に俺は、語彙力が無く、何がおかしいのか分からない困惑した表情で感想を述べる。


「まぁ、でも、それもあってか、周囲に傲慢な態度で、威張り散らしてしたみたいだよ。父は、その事をとても苦笑いしていたしね。


 結果的に多くの冒険者から、嫉妬やら反感やらを買って死にかけた所で、母にあったそうよ」


「うわぁ……それはまた、何とも言えないね」


 俺は右唇が痙攣して反応に困った。


「ねー。それでね、父的には、母が自分を救ってくれた女神に見えてね。母的には、帰り道に死にかけている人を見捨てるのは、薬師としての吟味と寝覚が、悪くなりそうだから助けたに過ぎないらしいわ。お互いに認識の勘違いが、あったそうよ」


「いや〜それは、何とも言えねぇです」


 俺は思わず両手で、顔を隠す仕草をする。


「父の精神的には、人間不信に陥った状態で、初めての挫折からの救済した母にぞっこんで、付き纏ったそうよ。母は我慢したそうよ。


 でも、夢だった薬屋の商売が、軌道に乗りはじめた時に付き纏われたもゆだから、今でも信じられないけど、とても怒っていたそうよ」


「えっ? アリア婆ちゃんって、そんなに怒らないの?」


「えぇ。普段は、怒るって言うか、指導や注意する時は、笑顔に圧力があって怖い感じなんだけどね。父さんは"そんなもんじゃかなかった"って言っていたわ。


 それから父と母は、紆余曲折あって、確か10年近くに及ぶ父の求婚に母が根負けしたって言っていたわね」


「色んな意味で、キース爺ちゃんって凄いんだね」


「(10年かぁ……マイナススタートで……女性に根負けさせて結婚するとか、すげぇな)」


「そうね、母さんがアタシや妹の[クレア]、弟の[コルバ]を産んだあたりから、父が精神的に落ち着いたって言っていたわ」


「母ちゃんにも妹や弟かいるんだね」


「ええ、確か[クレア]が軍事帝国ゾルピデムで、薬師をしながら結婚しているって書いてあったわ。[コルバ]は、魔法公国フロセミドで薬師しているって言っていたね」


「2人とも、大分遠いね」


「リオが、大きくなったらその内会えるよ」


「うん、じゃあ今日はもう疲れたから寝るね。おやすみ、父ちゃん、母ちゃん」


 俺は、母と父の馴れ初めが気になったが、俺は聞き疲れて日課である魔力感知とお祈りを行い、布団に入った。

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