君を抱えて生きる

ヘイ

君は生きていたかった

 僕は昔に心臓の病気で長くないと言われていて、ただその事ばかりが記憶の底にこびりついていた。

 けど、とある手術を受けてから僕は健康になって普通に生きられるようになったんだ。聞いたのは心筋症だかだったはずだ。

 僕は親に泣きながら抱きつかれ、とある家族が涙を流していたのを目にした。

 それがどうしてか分からなくて、僕は好奇心で調べてしまった。

 相手が誰だかは分からなかったけど、僕は彼の記憶の一部を持つことになった。

 暗所恐怖症、閉所恐怖症、鈍器に対する恐怖。そんなものを抱いて僕は生きることになった。

 十歳の頃。

 生きる事は義務であるのだと思った。脳死と判断されて僕の心臓移植のドナーになった彼も、本当は生きていたかったんだ。

 だから、僕は夢がなくとも生きていなければならないのだと、自分に言い聞かせて生きてきた。

 混濁する記憶。

 中学生の頃、僕は揶揄われ暗い体育館倉庫の中に閉じ込められ、あるはずもない記憶がフラッシュバックしてあまりの恐怖に気絶してしまった。

 そんな時に君を見た。

 見知らぬ顔なのに、温もりがあって。僕に生きろと言ってきた。

 誰かも分からないのに、僕はそうしなければならない気がして、目を覚ます。

 そこは病院のようだった。目を覚ました瞬間にズキリと頭が痛んだ。

 どうやら気絶した時に頭を強打したみたいだ。

 僕は君の心臓を抱いて生きる義務があると言うのは分かっていた。ただ、君が僕にそれを求めているのだと言うことは、その日、初めて理解したことだった。

 僕のドナーになった君は、暗く狭い部屋で鈍器で殴られ意識を失った。何度も何度も。力強く。

 君は最後に犯人の顔を見ていたんだ。

 それは君の母親だったんだ。

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君を抱えて生きる ヘイ @Hei767

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