感情を伴うデータ

リド

感情を伴うデータ

 「それでは、その『感情を伴うデータ』を見つけた経緯を教えて下さい」


 白く明るい部屋の中、白衣を着た女性は手元のボイスレコーダーの電源を入れ呟いた。


「いやあ、いざこう、記録を録られると思うと緊張しますね」

 ヘラヘラと笑う男性は、白衣の襟を整えながら話し出した。


「規則ですので」


 女性は手元の資料を読みながら淡々と答える。

 早く話して下さい、と視線を上げると男性は微笑んだ。


「十月の八日のことでした。だいぶ涼しくなりましてね、私は遺跡に出向くことにしたんです。夏の間にも一度行ったのですが、いやあ、あそこは風通しが悪いですね」


「遺跡というのは、荒野を十キロメートルほど進んだ先の都市跡ですか」


「はい、そうです」


 男性は足元に置いた鞄の中から写真を取り出し、女性に見せるようにしてこう言った。


「私の予想では、あそこは昔大都市だったんですよ。だからこう、色々なものが出てくる。時々ですけど」


「そうですね。では『感情を伴うデータ』を見つけた経緯を教えていただけますか」


「……今回私は遺跡の中央付近にある、割りと小さめの建物を探索していました。そこの二階の部屋で見つけました」


「見た目に特徴があるわけではないようですが、それに異常性があると気づいたのは何故ですか」


「金庫の中に入っていたんです。容量八ギガバイトのSDカードなんて、完全に遺物だと思いまして。その場で中身を見てしまいました」


「つまりは、見た目に異常はなかったのですね」


「そうです」


 女性は特に変わらない様子で資料を眺めている。


「貴方は直感が優れているのですね。貴重な能力だと思います。もしそれに理由があるとするならば、研究する価値がありそうです」


 ふと、声を漏らした。


「こういうのは、何と言うのでしょう、ロマン、なんだと思います」


 女性は再び視線を上げる。


「ロマンというのは、感情的、理想的に物事をとらえることでしょうか」


「そうです」


「そうですか。では、『感情を伴うデータ』を見せていただけますか」


 女性は立ちあがり、モニターの方へ移動した。男性はやはり笑顔のままパソコンを操作する。


「これが『感情を伴うデータ』です」


 ぱさり、と紙の落ちる音がした。女性の腕からするりと抜け落ちた資料が、水面のように床へと広がった。


「……どうして黙っているのです。何かありましたか」


 女性はモニターから目を離さない。女性は十分に時間を空けてから話し出した。


「おかしいですね、バイタルサインは正常値を示しているはずです。しかし胸の辺りに、何か違和感を感じます」


 女性は胸に手を当てた。それを見た男性は、にっこりと微笑んでこう応えた。



「それが、感情ですよ」

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感情を伴うデータ リド @ridorido

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