ショートショート墓場

紅りんご

最後の審判

私はもうじき死を迎える。死は見える形で私に迫ってきていた。私にはそれを避ける術も何も無い、ただ漫然と死を受け入れるだけだ。


『俺はまだ死にたくねぇ!』


『私も死にたくないわ!』


誰かの声が聞こえる。彼等は死にたくないらしい。羨ましい限りだ。私は出来れば楽になりたい。

今の私の体温が下がることは無く、少しずつ上がっている。それだけじゃない。体表からは毛が消え、薄茶色の部分がますます増えた。頭にも大きな穴が空いたことさえある。幸い、その時は塞がったけれど。身体のひび割れや肌荒れなんてしょっちゅうだ。

それもこれも全部、この身体を侵す寄生虫のせいだ。彼等は私の身体を傷つける事ばかり引き起こす。残念だが、彼等を殺す力が私には無い。一気に殺してしまおうにも彼等は増えすぎた。でも、私が死ねば彼等を一掃出来る。これ程嬉しい事はない。

また、騒がしい声が聞こえてくる。


『だんだん見えてきたじゃねぇか……。』


『もう駄目だ、おしまいだ。』


『早く逃げよう!』


『逃げるってどこによ!』


『我らが神よ、我らに死後の救いを……。』


人類最後のニュースが流れる。


『緊急速報です。現在、巨大な彗星が近づいています。もう既に視認出来る距離です。逃げる場所はありません。どうか、皆さん良い終末を─────────』


私は近づいてくる死へ歓迎の気持ちを明らかにする。


『ようこそ、地球へ。』


これで体中にばびこる騒がしい寄生虫、くそったれな人間共とはおさらばだ。これはお前たちの私に対する行いへの罰、言うなれば地球最後の審判だ。

その日、彗星は地球に衝突し、地球はその長い生命を終えた。まるで彗星を出迎えるように動いた瞬間を見たと言った者もいるが、全ては宇宙の塵芥。



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ショートショート墓場 紅りんご @Kagamin0707

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