第37話 悪代官スイングバイ

「ふふふふ……ふふ、よくぞのこのこと現れてくれたな、マサムーシ」

「……!何故、私の名を知っている。貴様はたまたまユミーコをさらっただけではないのか!」


 この悪代官は、実はAEマサムーシの息がたっぷりかかった刺客だったのである。その息はとろっとろのジャムみたいなもので、彼は焼き立てのトーストみたいなもの。その相性は抜群で、苦めのコーヒーと合わせれば爽やかで充実したモーニングを楽しめる。そんな悪代官だ。


「卑劣な真似を……その所業、万死にあたいする!」


 マサムーシは叫んだが、それは単純な回数(量)なのか死に方(質)の話なのかはっきりさせる必要もあった。同じ手段で一万回、別々の方法で一万回かで話は大きく変わってくる。語呂とか響きが恰好良いだけで使っただけなのがバレると恥ずかしい。死に方の種類を大別したらどれくらいあるのだろうか。〇死みたいな。流石に万はねえだろ。八百万やおろずみたいなものだ。まあ結局はただの比喩だと判っていても、こういう場面で言わずには居られないのも判る。


 しかし悪代官は比喩表現が通じないタイプの男だった。

「えっ、万はヤだな」

「じゃあ八千。これは譲れない」

「二千で」

「七千五百」

 

 マサムーシと悪代官の万死交渉が始まり、その間にオニールとタカマーツは悪代官の手下どもをこっそり仕留めていた。さすが知将マサムーシである。相手の誘いに乗ったと見せかけて敵の戦力を削り、孤立させるなんて……。数字を細かく刻む辺りも彼の狡猾とも言える理性を現している。


 イケメン、イケショタ、イケオジが織り成すチームワークに、それまで悪代官の激しい御回りに精神的ショックを受けていたユミーコは、正気に返った。

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