第29話 宇宙鬼

「マサムーシさまのばか……くすん」


 ユミーコは、間寺フェスですっかり後の祭り(物理的に)になった荒野に撒き散らかされた瓦礫の山のてっぺんにちょこんと座り、さめざめと泣いていた。流した涙は四角、三角、まる、の順番で、カラカラコロコロと美しい音階を奏でて瓦礫の上を転がっていく。全異宇宙で最も美しいとされる、ジミ・ヘンドリックスのリフだ。


 嗚咽に肩を震わせるたびに、縦ロールの金触覚が儚く揺れていた。


「……来ない!来ないわね!フツーこういう時は追っかけて来るもんでしょ」


 ひとしきり泣いてすっきりすると、ユミーコはやっぱりムカムカしてきた。

 冷静になってみると、なんであんなもんに惚れていたのか良く判らなくなってくる。所詮は寿司型宇宙船で轢いた轢かれただけの間柄だし、憑依とか変身とか合体とか分裂を繰り返した挙句に、彼の人格が一体どういう状態になっているのか、皆目見当もつかない。


 PJマサムーシは正義の武将らしく白い具足を着ているのだが、最初はカッコイイ……と感じていたそれも、思い直してみると太陽の光をやたらに反射して目がちかちかする、と、腹立たしくなっていた。


「それでもやっぱり……私は」

 この不信感はきっと、次の好きへのバネになる。そう思ったユミーコは気持ちを切り替えて、PJマサムーシの元へ戻ろうと決意した。


 しかしその時。


「おねえさん!なんで泣いてるの?悲しいことがあったの?」

「え、何?きみは……、まあ!なんて、なんて可愛い子なの!?」


 突然現れたキュートな少年が、屈託のない笑みを浮かべてユミーコに忍び寄っていた。どれくらいキュートかと言うと、国際的に制定されているキュート指数(QT)が……その話は次回に持ち越す。もうしなくても良いかも知れないけど、やる。


 結論を先に言うと、ユミーコの涙に誘われた宇宙鬼の少年がやってきたのだ。

 宇宙鬼は誰かが泣いてるのが堪らなく好きで、隙あらば異宇宙じゅうの誰かを泣かせようと企んでいる。


 そんな事は露知らず、ユミーコの血液中のショタ濃度は急激に上昇していた。病院に行けば検査に引っ掛かるレベルだ。紹介状も書かれる。


 悪役令嬢星人はイケメンもだが、当然、美少年も普通に好きなのだ。

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