第4話 煙草




ぽとん




煙草の箱が床に落ちた


私がダイニングの棚を整理していた時だった


私は煙草は吸わない




私の足元に白い煙草の箱が転がっている




この煙草を吸っていた人は誰 ?


駄目だ


思い出せない


でも私はこの煙草を知っている


吸っていた人は思い出せないのに




私は煙草の箱を手に取った




やはり私はこの煙草を知っている


それは遥か昔のように感じられるし


つい最近のようにも感じられる




シュボッ




私は箱の中から1本の煙草を取り出して火をつけた


煙草は湿気っていてなかなか火はつかない


私はフライパンの上で箱ごと火をつけた




白い煙が立ち上る


それに混じって紫色の煙も立ち上る


その煙の中にあの人の顔が浮かび上がる




あぁ、あなただったのね


まだ煙草は吸ってる ?


天国が禁煙じゃなければ良いわね




煙草の箱は燃え尽きた


煙も無くなった




私はフライパンを洗い流した


そして浴室に向かおうとした私の足になにか触れた


それはころころと転がっていった




それは紅い口紅が付いた1本の吸いかけの煙草だった









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