新型ゲーム機が血液5リットルって高すぎません?

ちびまるフォイ

血の代償

「お会計、血液20mlになります」

「はい」


レジで店員に腕を見せると慣れた手付きで血が採られた。

コンビニを出たときに一瞬ふらついた。


「っとと、あぶねぇ……貧血か?」


昔からよく貧血で倒れやすいタイプだった。

校長先生の長話のときには8割方ぶっ倒れる。

こんな体質なので1日で使える血の量はひとよりぐっと少なかった。


コンビニで買ったご飯と鉄分ジュースを飲みながら、

空いた手でスマホを操作しては新型ゲーム機のサイトを巡回していた。


「はぁ……ほしいなぁ」


新型ゲーム機は価格が血液5リットルの強気な設定。

それでも抽選倍率が高いのはそれでも欲しい人が多いのだろう。


いつか買えるその日までちまちま貯血しているものの、

これが5リットル貯まるのはいつになることやら。


「あーーあ、B型の血液価格釣り上がってくれないかなーー!」


もはやできることと言えば、自分の血液型の1mlの血液価格が上がるのを祈るくらい。

B型の1mlが、A型の100リットルくらいの価値になれば新型ゲーム機も少ない血の量で買えるのに。


そんな浅ましい願いを知ってか知らずか、1通のメールが届いた。


「誰だろう……。ん!? と、当選!?」


応募こそしたものの諦めていた新型ゲーム機の当選通知だった。

さっき貧血で倒れそうになったのも忘れてその場で3回転半のジャンプをして小踊りしてしまう。


浮かれに浮かれていたものの、メールに記載されている最後の1文により一瞬でお通夜へと変わった。



>なお、当選完了後から48時間以内にお支払いいただけない場合

 当選者は別の方へと移動します



「え゛……」


自宅の血液冷蔵庫で保管している貯血の量を確認したがとても足りない。

せっかく高倍率の中から当選を勝ち取ったのに、このままでは権利を失ってしまう。


「どうしよう! なんとか貧血覚悟で抜くしかないか!?」


自分の中の血液量を計測してみたところ、のべ5リットル。

これを新型ゲーム機の支払いに当ててしまうと確実に失血死する。


1日で作られる血液量はせいぜい40mlくらい。

48時間以内に5リットル用意するなんて無理だ。


法外な身代金を要求されているような気分。


「か、かくなる上は……!!」


家にあったモデルガンと、年末の忘年会で使った余興用マスクをかぶって血液銀行へと押し入った。


「全員動くんじゃねぇ! このかばんにありったけの輸血パックを詰めろ!!」


「ひいい!」


「妙な動きをしてみろ! そいつの体から全部の血を抜いてやるからな!!」


いまどき銀行強盗なんてうまくいくものかと自信なかったが、トントン拍子で血液をゲットできたのは幸運だった。

新型ゲーム機の当選も含めて、神が味方にしているに違いない。


「ようし、5リットル以上集まってる! これで買える!!」


パンパンに血液パックが詰まったかばんをサンタクロースのごとく担いで見せて向かった。

当選番号を見せると、店員が別室へと案内する。


「はい、新型ゲーム機はこちらになります。お支払いをお願いします」


「この袋にたくさん血液入ってます。どうみても5リットル以上ありますから、取っていってください」


店員はごそごそを袋に頭を突っ込んで血液をあさりはじめた。

しばらくすると申し訳なさそうに話しだした。


「あの……お客様、失礼ですが血が足りていないようです」


「そんなバカな!? こんなにあるんですよ! 明らかに5リットル以上あるでしょう!」


「たしかにすべての血は5リットル以上あります。

 ですが、お支払いできるのはご自身と同じ血液型のみです。

 あえてこの血がどこで入手したものかは聞きませんが……」


「ちょっと待って下さい! それじゃB型はどれくらいあるんですか!?」


「計量したところ……30mlです」


「はい!? 全然足りないじゃん!!」


せっかく決死の覚悟で血液銀行を襲ったのに、B型が足りていなかったなんて。


「それで……どうします? 当選権を諦めますか?」


「馬鹿言わないでください! 準備しますよ! 準備すればいいでしょう!?」


血液ATMに走ったものの当然5リットルなんて用意はできない。

じわじわ迫る支払い期限に頭をかかえてしまった。


「どうしよう……どうにかして血を用意しないと……」


公園のベンチで絶望に打ちひしがれていると、ふと足元にトマトジュースの空き缶が転がっていた。


「まったく、誰だこんなところにポイ捨てしたのは……あ! そうだ!」


トマトジュースを5リットルぶんまとめ買いすると、

それを水と染料を使ってさも血液のように偽装した。


5リットル分のトマトジュースを持ってふたたび店に向かった。


「あ、お客様。血を用意できましたか?」


「ふっふっふ。これを見てください。5リットル分あります」


遠巻きにトマトジュースの入った血液パックを見せる。


「今度はB型なんですよね?」


「は、ははは。当たり前じゃないですか。それよりはやく商品を!」


「え、ええ……」


新型ゲーム機とトマトジュース袋を交換するとそそくさと店を出た。

血液かどうかを確かめられたら終わりだ。


店を出てからはゲーム機を抱えて猛ダッシュ。

後ろから慌てた店員が追いかけて来ないか見ながら走る。


「はぁっ……はぁっ……追ってこない……! 気づかれてないぞ!」


ひと安心して前を向いたときだった。

ゲーム機の箱を抱えていたために視界が塞がれ、迫ってくる車に気づかなかった。


ドン、と突き飛ばされるような衝撃とともに体は宙へと投げ出される。


アスファルトに叩きつけられるときには、

ゲーム機がクッションのように挟まってしまいバキバキと割れる音がした。


「ああ……なんてこった……」


体には力が入らない。

どこを怪我しているかもわからない。

それでもだくだくと血が流れている感覚だけはあった。


(もうダメか……)


声すら出せなくなったとき、さっきの店員がやってくるのが見えた。

すぐさま駆け寄ると手際よく処置の準備をしはじめた。


「あ、あなたは……」


「私は元医者です。安心してください、あなたの命は必ず助けてみせます!!」


「おお神よ……」


今日にかぎっては神はあらゆる点で自分に味方してくれていると確信した。

強盗を成功させ、今はこうして医者を手配してくれている。


医者はケガの様子をくまなくチェックして準備を済ませると処置に入った。


「とにかく出血がひどいです。すぐに輸血しますね!!

 あなたの血をもらっていて本当に助かりました!!」


店員は迷うことなく、トマトジュースを俺の体へ大量に流し込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新型ゲーム機が血液5リットルって高すぎません? ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ