校長の長話その4

 天京院の一団は、先陣の横を通過して、そのままさらに前進しようとしています。その時、先陣にいた部隊長が

「待たれよ、先陣はわれらですにゃ、誰であってもとうすわけにはいかにゃい!!!」

と、大声で呼び止めました。

 直弼は

「天京院旗下の直弼ですにゃ。興秋さまとともにみずから斥候をしているにゃ。興秋さまは初陣ういじんだから最前線で戦闘を見たいとのおおせにゃ。しかけるわけではにゃい!!!」

と、返すとそのままさらに先進します。

 それからすぐに銃声がしました。開戦の狼煙ともいえる、その銃声で戦いの火ぶたがきられました。その時間は午前8時くらい。


 東帝国軍の先陣にいた者たちは次々、西帝国軍に突撃して、戦場はまたたくまに乱戦になっていきました。その中に、強化アーマード装甲スーツに身を包んだレイモンもいます。かれは興秋と直弼にさきがけの功を奪われて、怒り心頭でした。

「あのクソ猫どもめ!!!」

 しかし、彼も歴戦の将です、怒りをなんとか抑えると、そのまま旗下の800名をみずから指揮し、敵陣に向かっていきました。

 さて、このレイモンは、もともと猟師のこどもだったのがカンタールに育てられた武将なので、ルッグと同類と言えます。が、しかし関係は良好どころかレイモンはルッグに対して激しい憎悪を抱いていました。なぜかというと、そもおそも性格が合わないのにくわえて、カンタール晩年の失策といわれる対皇国戦で、自分たちは戦っていたのに、あいつらは後方でのうのうと楽してるという思いもあったからです。そのために、事前に軍議では

「これはルッグのやろうのたくらみにちがいない。義を踏みちがえてはならぬ、おれは天京院どのにお味方するぞ!!!」

と、ルッグをぼこぼこにする気まんまんでした。

 レイモンは、敵兵をバッタバッタとなぎ倒しながら

「退くな、退くな!!!

敵に後詰めはない、恐れることはない!!!」

と、叫んで味方を鼓舞しています。


 時間は経過し、午前9時くらい。銃声があたりにこだまし、喚声かんせいが地を響かせています。東西両帝国軍の勝敗は未だ決まらず、死闘は続いていました。

 さて、開幕の初撃でルッグ率いる部隊は半壊状態にありました。それをルッグの部下であるサコンやゴウシャがなんとか抑えているという状況です。

 彼らはルッグによって見出された武将たちであり、例えばサコンは

「ルッグさまの重い恩に報いんがため、一命を捧げる覚悟であるにゃ」

と、つねづね言っていたそうです。

 その働きは凄まじく、あるものは

「サコンが率いていたのはみな勇士で、100ばかりであったにゃ。彼らは30で我らを引き付け、誘ったところを残りの70で追いくずしたにゃ。今だって、思い出すと総毛だって、汗をかいてしまうにゃ。仲間たちはみなやられて、わしも危ないところだったにゃ」

と、述懐しています。


 午前10時くらいになっても、戦況は一進一退の状況です。中でもレイモンとカシュルールという武将の戦いは双方のフラッグが入り乱れる激戦となっていました。

「わわわ、なんでこんなことに……」

「ほら、行くぞ、俺たちは生き抜くんにゃ」

と、友人を励まして必死に戦っている猫がいました。名前をタケゾウといいます。彼は一旗揚げようと、カシュルールの部隊に配属されてしまったために、この激戦の渦中に巻き込まれてしまったのでした。

その時、タケゾウの鋭敏な目が、強化装甲に身を包んでいるものの、動きが鈍い武将をとらえました。

「おお、チャンスにゃ、ヤツを倒せば出世と褒美間違いにゃし!!!」

 タケゾウはそのまま跳んでその武将に斬りかかりました。

 が、斬撃は武将のかたわらにいた見るからに剛の者によって阻まれます。

「おおい、タケゾウ助けてくれ!!!」

「ち、運のいい奴にゃ……。まってろにゃ!!!」

と、タケゾウは仲間を救うために駆け出しました。


 さて、東西両軍の戦闘は3時間くらい延々と続いていますが、西帝国軍は総数の半分以下の35000くらいしか動いておらず、他はまるで様子を見てるように待機しています。

 ルッグ率いる部隊は、奮戦するも、徐々に追い詰められています。窮地を脱するために、ルッグはとなりに布陣する井之原いのはら隊への応援を求めようと、急使を派遣しました。

 しかし、まもなく使者が青ざめた顔で戻ってきました。

「ウマの上でそんなことを言うのは、無礼千万だニャア」

と、追い返されたというのです。

 そこで、ルッグは自身で井之原の陣地に行き、参戦をうながしました。

「頼みます、あと一押しなのです」

 しかし、井之原の側の返答は

「今日の戦いは、各隊が全力をつくすだけにゃあ、他の部隊の戦いをかえりみる暇はにゃい」

というものでした。

 井之原が頼りにならないと知ったルッグは、自陣に帰るとジュノバへむけての狼煙を準備させました。彼さえ動けば戦況は一変するからです。

 やがて、霧が晴れ始めた猫ヶ原の上空に、、と狼煙が上がりました。


 それをみて、春見は焦りました。ジュノバの動きがないところに、この狼煙です。心配になった春見はジュノバとの交渉をたんとうしたダインに確認を取りますが

「ジュノバが裏切るかどうかはわたしもわかりません。もし約束が破られた時は、ルッグともども討ち果たしましょう」

と、深い憤りが感じられる返事が来ました。

 それを聞いて春見はますます心配になってきました。

「さては、ジュノバに謀られたか」

 しばらくもの思いにふけった彼は、やがて意を決したように近くにいた部下に命じました。

「ジュノバの陣地に、強化装甲用のカノンを打て」

「は、しかしあれはまだ実戦には早いと報告が……」

「かまわん、脅しには充分だろう」

「……わかりました」

 やがて、春見の陣地から轟音とともに、砲弾が放たれ、それはジュノバの陣地の近くに着弾しました。小さいクレーターが出来ただけで、死傷者はいなかったようですが、メッセージは伝わったでしょう。

 そしてこの一撃によって、戦況は動き出します。

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