ある街の出来事

少女と出会い

 なぎ島は、秋月国を構成する3つの島々の1つで中心都市は久川ひさかわ市である。

 その市内に、島外から移り住んだ人々が集まってできた地域がある。そこはジョージ・エリオットの作品から名前を取って『ミドルマーチ』と呼ばれている。

 マルタがこの地に来たのは、春の足音が聞こえてくる3月末のことだった。

 彼女がなぜこの地に行くのかというと、ミドルマーチにある全寮制の学校に通うためである。

 さて、道中に乗った蒸気船でマルタはある少女と同室になった。

 「あなた、お名前はなんていうにゃ?」

と、マルタが訊くと、少女はおびえたようにオドオドしながら

「キ、キキョウですぅ……」

と、名乗った。

 少女が怯えた風にプルプル震えているのを、四苦八苦しながら話していくと、2人が同じ学校に通うということがわかった。

「へえ、そうなんにゃ」

 しばらく考えるそぶりをみせたマルタは、だしぬけにこう提案した。

「じゃあ、わたしたち、友達になりましょうにゃ!」

「ええ……」

「そう、それがいいにゃ」

と、1人納得してるマルタを、キキョウは困りながら、しかしうれしそうな、複雑な表情をしている。

「ね、きみもそうおもうにゃね?」

「う、うん……」


 やがて、蒸気船はレンガで作られた倉庫か、立ち並ぶ港に到着した。

「学校でまた会えるといいね、ばいばーい」

「うん、ばいばい……」

 キキョウとわかれたマルタに、迎えに来た人の中から『マルタさま、こちらです』と大きく書かれた紙を持ったメイドが話しかける。

「こちらです、こちらです!!」

「わかったから、その紙下げてー!!」

 マルタとメイドは、蒸機馬車に乗って、ある邸宅へ向かった。母の弟で成功して財をなしたカソーボンおじさんの家である。

 カソーボンおじさんは面白味のないのだけども、その家も実直質素な感じで、正直特筆すべきことはない。

「ホント、何もないわね。……暇だにゃ」

と、マルタはグチりながら、頬杖をつく。

「はいはい、明日き初登校ですよ、お休みなさい」

「はあい」

と、メイドに言われて、マルタはベッドに潜り込む。


 翌日、マルタは学校の入学式で、校長の長々と延々続くお話(かつて帝国であった戦いについて)を聞かされるハメになった。

「……つまり剣星隻眼のウェイブは、ここで過去を許したわけです。それは当時も現在もできるものはいないことでした」

 それにヘキヘキとしながら、ようやく終わると、さっさと寮の自室に初めて入った。

「あー、疲れたにゃ」

「あ、同室の……。あれ?」

「キキョウちゃん!同じ部屋だったにゃ?!」

と、マルタはキキョウに抱きつく。

「これから、よろしくお願いにゃ!!!」

「よ、よろしく……」

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