共和国世家及び列伝
帝国で何度目かの大乱があったときの話である。
帝国南部4州を治めるものたちが集まった。
「もはや、帝国に未来はない。我ら独立すべし」
「しかし、我らは財も武も少ない」
「だからこそ力を合わせねばならぬ、抜きん出たものを作るより、力をあわせるべきだ」
「おお」
と、彼らが話していると、1人の白髪頭が現れて話しかけた。
「ならば、私も微力ながら協力いたしましょう」
「貴方は?」
「私は州境にある、来訪者の門を守護するものです。もはや、帝国に門を守る力はありません。貴方たちに協力する代わりに守っていただきたいのです」
「わかりました。お任せあれ」
これが共和国のはじまりである。
シケイは現在共和国とよばれる地域にあった来訪者の門の守護者の1人であるが、資産家としても知られ、かつて帝国の勇将マサムネに食料の提供をもとめられ、クラ1つ分をそっくりかし、マサムネを
「にゃんと大きい方にゃ」
と、驚嘆させた。
そしてマサムネの紹介で先の会議に出席し、共和国の原型にあたる連合軍を提唱し、会議の出席者たちに信頼された。以後は、4州によって選ばれた主宰者の右腕として重用されることになる。
さて、シケイが共和国を構想したキッカケは、甥の回想録とよれば、こうであった。
かれは療養のために甥の家にきたのだが、そのとき甥の家などで、農民や労働者を鞭打つ光景を目撃した。
「シケイおじさんは、田舎の粗野や不正といったものに、深いショックをうけたのであった」(回想録)
つまり、このようなことが起こるのは、社会自体に問題があると考えたのである。
そして、これが民衆のための国、そのための前段階としての連合体制の構想を生むキッカケとなったのである。
この甥の名は、マルゼンスキーという。
シケイはこの事業の道半ばで死亡し、その事業は友人のシンクロウと、弟子のシメイに託されることになった。
シメイはルネージュの出身で、幼いころはシケイのもとで、学んでいたという。そのあと軍人になった。
シケイの死後は、シケイの友人シンクロウと一緒に共和国構想を進めた。自身の部隊で電光石火、連合の領主たちを脅し、必要なら粛正することで、大陸史上初の普通選挙を実現させた。そうして初代統領にヘズンという領主が就任した。シンクロウが初代首相となり、シメイは近衛連隊隊長となった。
そのころ皇国が共和国侵攻の動きをしめしていたが、シメイは病気をよそおって、警戒心をとき、敵将ウィナスを孤立無援に追い込んで、息子ともども捕らえて処刑してしまった。
その祝宴で、シメイはウィナスの霊にとりつかれてしまい、シンクロウに
「裏切り者の鼠、猫目のクソガキ」
とののしり
「われこそはウィナスなり」
と、叫ぶなり、体中から血をながして息絶えたという。
しかし、これはシメイがくだんの防衛戦の後に病死してしまったために広まった伝説にすぎないようだ。享年36。
シンクロウの祖父は帝都出身の行政家で、名前も同じシンクロウ。土着した後は領主の1人となった。次代には連合でも有力な領主となっていて、シンクロウの父(かれの名前もシンクロウで、3代にわたって名前を世襲している)はシケイの政治的な後ろ盾であった。
3代目のシンクロウも有能な民政家で、初代首相として在任中に大陸初の憲法制定をはじめとした、共和国を国家として確立する事業に力を尽くした。在任期間は12年。首相の座から下りたのちも、政界の重鎮であった。
シメイとシンクロウのコンビの活躍として知られるのが、ロギオン城夜戦である。
シケイの死後、帝国に戻ろうとした領主たちが、ロギオン城を包囲した。すぐに開城すると思われたが、守将であるルカーチは半年以上も耐えた。その間にシンクロウは方々に和平交渉を働きかけた。何か月も攻城戦を続けていた上に、共和国側の消極的な動きに、帝国に戻ろうとした面々は油断した。機を見極めたシメイは、ある日の夜、ついに敵に強襲した。3000名以上討ち取ったという。この勝利で、共和国の地盤は強固になる。
ルカーチはもともと2代目シンクロウのもとに居候していたものだったが、シメイに見いだされて、1軍を率いる身分となった。シメイの死後は、共和国の軍権をになっていくことになる。
性格は良く言えば勇猛果敢、悪く言えば粗忽もので、シメイはかれを評して
「もしわが軍が破れて、死亡者を見分すると、23体目にルカーチがおるだろうにゃ」
と、言っていた。
リビッチは共和国の音楽家として知られている。生まれは現在は共和国領であるエスタリア。
帝都の音楽学校で学んだ彼女は、故郷へ帰るとすぐに起こった共和国建国に至る混乱の中を義勇兵としていくつかの戦場へ赴く。
その後、リビッチは故郷エスタリアで音楽の教鞭をとり、後進の育成にあたりながら、作品を作っていった。
「とても熱心で、そして人柄も良くって人気の先生だったにゃ」
とは、後年教え子だった音楽家の回想。
作風は地元の民俗音楽と、帝都で学んだ現代的な音楽の影響を受けて斬新な新旧の結合と評される。代表作は『叫び』『ワールズエンド』「グッパイハピネス。」等がある。
フラウスターは帝国と共和国の係争地だった領域で、共和国独立時に同じような独立をのぞんだが、帝国の侵攻をうけ、のちに『アラモ砦の再来』と呼ばれた悲劇的な戦闘をへてなんとか無事に独立をはたした。
反撃の指揮を執ったディアナという女性が初代元首についた。
しかし、帝国の圧迫は続き、ついには首都ロギオンを包囲され街には
なお、ディアナは毎年の12月25日、救護院や貧者の家庭にプレゼントを持って訪問したりする1面があり、そのため
「すべての民たちのために生きる女性で、民衆の元首である」
と、評された。
アニーは丸太小屋に生まれた。10歳で天涯孤独の身になると、父に学んだ狩猟を始める。銃の名手となって、天京院末吉の息子元春が主催した野外劇で活躍した。
空中に投げたトランプのハートの6を落下するまでに6つのハートすべて撃ち抜くことができた。
性格は謙虚で親切で、博愛主義者であったという。
2方面に兵を割くのを避けるため、1時的とはいえ帝国と講和しなければならなくなったとき、たまたま帝国からティブという男が帰ってきた。かれはロギオン城夜戦で敗北した側にいて、帝国に逃げる1団の中にいたのである。
なぜかれが帰ってきたのかいぶかしむ声もあったが、ともあれ貴重な帝国の内情を知っているかれを中心に、和平交渉がはじまった。
のちに救国の女傑といわれるフェルミダにたいする残酷な処遇で悪名高いティブはこうして共和国の政界に登場したのである。
結果として、共和国が帝国に臣下の礼を取ることで和平は(多くの不満を残しつつ)成った。この和平は皇国との戦闘が終わり、かれらとの和平が模索されたときに改定されることになる。
ティブは晩年、身体のあちこちが膿み腐り、苦しみながら亡くなったという。嫌われていたかれには揶揄や嘲笑が投げかけられ、街ではこんな辛辣な小唄が流行った。
『ティブはその生涯を使い切り
その哀しい運命を終えた
ドロボウどもよ、震えるがよい、悪女たちよ、逃げるがよい
おまえたちは父親をなくしたのだ』
ある戦場でシメイのかたわらに見知らぬ若者がいたので、ルカーチは訊ねた。
「誰ですにゃ?」
シメイは答えた。
「本国無双の勇士、ナオイエだにゃ」
すると、ルカーチはさらに訊ねた。
「へえ、その若造が?」
「うむ、帝国や皇国との戦場で、オヤジといっしょに命を捨てるような戦いを何度もやってるにゃ」
これを聞いたルカーチはガハハと笑いながら言った。
「そんなんだれでもやってますにゃ。わたしは一軍を預かる身なので、指揮することで忠をしめしてるのですにゃ」
そして、その場に控えた部下たちに
「お前ら、今度の戦ではテメエで戦って、本国無双の勇士と褒めてもらえにゃ!!!」
と、叱咤した。
共和国政府は、外交上の利益とすべく他国の支配者に特別な関心を寄せており、当然タイシン帝の身辺情報も入手しようとしていた。
帝都駐在の大使マクセンがその使命を負っていた。かれは常に片手に時計を握っていた。マクセンは共和国に対して、タイシン帝の後宮の庭園での休息には、政治的思惑は認められないと報告した。
『タイシン帝はガーデナーの娘と30分を共に過ごすことを日課としていますが、会っている時間の短さからわかるように、お求めになるほどの利益はありません』
さて、ティブのあとを継いで共和国の政務を司っていたのはヤスモリというものであったが、帝国追従路線を進める過程で専制の色を強め、当の親帝国派すら忌避されるようになっていた。結果としてかれは何者かに暗殺され、ちょうど大統領選挙の時期でもあったので、共和国の国民は新しい指導者を選ぶことになった。
「親帝国とも反帝国とも距離がある大統領が良いにゃあ」
と、選ばれたのはネルバという猫であった。
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