聖域都市その3

 ムングとは、帝国と共和国に跨がる遊牧民が暮らす地方、またはその遊牧民自身のことを言う。

 双方から迫害をうけた彼らは、武力から非暴力のいわゆるハンストまで、さまざまな抵抗を続けている。

 さて、ロムがパーマストン・パークの道中で行くことになったのは、ムングの聖地である『ドライアード』という森深い小さなオアシスにある町の近くにある同名の小さな霊峰であった。


「ええと、あんた、どっかで見たことあるにゃ……」

「ニューラグーン警察のヒエロニムスだ」

「ああ、思い出したにゃ」

と、ムングの少年は、軽く頭を縦に振った。

 ムングの人々は、いわゆる土竜モグラのような顔をした猫なのであるが、目の前にいる少年は、その典型のようなものであった。

「たしか、麻薬柄みの殺人を追ってて、このあたりの組織の建物を爆破してたにゃ。

あの時の相方さん、崇とかいったけ、元気かにゃ?」

「ああ、あたらしい相棒と、相変わらずさ」

「それで、なんのようにゃ?」

「ちょっと、祭司さんに頼みがあってね」


 少年に案内されて、小さな寺院に入ると、そこに祭司はいた。

「お久しぶりです」

「ああ、貴方でしたか」

と、祭司は全てをわかっているかのように、うなずいた。

 ロムは、鞄の中から、小さい箱を取り出して、こう言った。

「名もなき彼女の骨です」

「そうですか、新たに神の元に行かれた方が」

「しかし、名前はおろか、なにも彼女を証立てるものはありません」

 ロムがそう悔しそうに言うと、祭司はこう返した。

「それでも、こうして自分の魂の故郷に帰ることができることが、えにしというものですにゃあ」

?」

 ロムが疑う風に言うと、祭司はコクンと軽くうなずいた。

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