080 ダンジョン攻略(7)

「当たったっ!」



興奮こうふんして大声が出てしまった。


もちろん、敵の体力が1なのか10なのかはわからない。この攻撃で決められる根拠こんきょはない。しかし、俺には確信かくしんがあった。



―――体力1じゃないと…往生際おうじょうぎわが悪すぎるし…。



確信というより願望がんぼうだった。



―――頼む…。



次の瞬間、剣が当たった右足が光をび始めた。範囲攻撃のそれとも転移したときのそれとも違う。



「おわわわわわっ!」



敵の巨体がかたむき、ビーンズさんが大慌おおあわてでこちらへと逃げてくる。



――――――ドシーンッ



それは勝利を告げる砂埃すなぼこりだった。



「…勝った…勝ったーーーっ!げほっ、げほっ…。」



「…終わったのか…。」



喜び方は、やはり人によって違うらしい。ウッドさんは冷静に敵の残骸ざんがいを見つめつつ、勝利をかみしめているようだ。きょうだいはき合って喜んでいる。



―――エリさん…今、帰ります!





「いやー、コウタさんすごいっ!さすが学者さん!」



ビーンズさんが、まるで太鼓持たいこもちのようにめてくれる。やっぱり褒められるのはうれしい。



「まさかパジャマ姿の青年が、ここまでやるとは。ムハハハッ!」



「ちょ、ウッドさん…その話は…。」



り返されたくない。



「それで…これ、どうします?」



バニラさんだけは冷静だったようだ。ダンジョンを攻略したので、当然に財宝が手に入った。その量に圧倒されて、現実逃避とうひこころみていたのだ。



「とりあえず…つえはコウタさんだよね。魔法使いだし。あと装備は…剣とたてと弓か…。」



何だかデジャブを感じるのだが、ありがたくいただいておく。



「わし、弓でも良いかの?昔は弓使いでならしておったんでな。」



「もちろん。ビーンズはどっちが良い?」



「僕は…盾かな?防御役やってたら、なんかおもしろくなっちゃって。」



「オッケー。でも、このダンジョン出たら、きっと防御力戻っちゃうと思うよ。」



「うえっ!?マジで…そりゃ残念…。」



バニラさんの予想、正しいと思う。これは外見がいけん上チートだったが、その実はトラップだったわけだ。敵を倒した今、トラップが解除かいじょされるのは当然と言えば当然である。


残りの財宝は山分けということで、話がまとまった。誰かが大量に欲しいと言ったわけではなく、みんなで遠慮し押し付けあった結果だ。



「じゃあ、これで脱出ですね。」



ダンジョンの奥、転移てんい魔法陣まほうじんの近くに集まる。



「ビーンズ、忘れ物ない?」



「姉貴、もう子どもじゃないから…。」



またどこかで会うとは思うが、一応これでお別れである。



「皆さん、ありがとうございました。」



「こちらこそ!コウタさんおらんかったら、脱出できてなかったかもやし。」



「そうそう、お礼を言うのは僕たち。ありがとうございました!」



「わしからも礼をさせてくれ。」



「では…。」



魔法陣の上に乗る。間違いない。転移の感覚だ。



―――帰れる…。



ずっと我慢がまんしていた涙があふれだした。





「コウタさん…。」



―――キャウン…。



「エリ、夜ごはんじゃぞ。おばちゃんに頼んで、テイクアウトさせてもらったんじゃ。もちろん、わたあめの分もあるぞ。」



いつもなら「ごはん」という言葉に反応する「わたあめ」だが、今日は静かにエリのそばを離れようとしない。


コウタがダンジョンにい込まれて以降いこう、コロンはありとあらゆる手をくした。文献ぶんけんかたぱしからあさり、旧友きゅうゆうにも助けを求めた。しかし、解決策はなかった。やはり、ダンジョンの攻略が唯一ゆいいつの道だった。


そうこうしているうちに時間は経ち、もう日付が変わろうとしている。かなり遅い夜ごはんになってしまった。



「おじいちゃん…私…。」



「…エリっ!石が!」



石が光をはなち始めた。以前とは違う。優しい光だ。



「え…?」

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