半同棲生活~引きこもりの美女を養う〜

横糸圭

第1話 半同棲生活

「ねえ、風太ふうたくん~欲しいモニターがあるんだけど……」

「ダメだ、働かざる者に送る祝福などない」

「えーん、けちい」


 ぶすっと唇を尖らす女の子。

 いや、女の子というにはあまりにも色気が漂っているか。じゃあ女性と形容しよう。


 ずっと家に引きこもっている彼女はすっかり油断しきっているのか、本当に丈の短いショートパンツとタンクトップをだらっと椅子に足を伸ばしている。

 その艶めかしい細足に風太は思わず目をそらしたが、その視線を女性は見逃さなかった。


「はあ、あっついわあ……」


 足を組み替えて膝を立たせる、すると、それを見計らったように彼女の足が照り輝く。


「なっ――!」

「はあ、暑い暑い」


 ついでとばかりにサービス精神旺盛に胸元をちらりと見せる。


 そこには桃色の……。


「ば、ばかっ‼」

「あーん、暑い暑い」


 風太は抵抗をするが、女にはノーダメージ。

 椅子から下りて風太に近寄ると、下からもう一度胸元を開ける。


「汗かいちゃった……」


 それから耳元に近づいて囁くように。


「今から一緒に、お風呂に入ろっか♡」

「~~~~⁉」


 それだけで風太の耳は簡単に真っ赤に変わった。


 その姿を、女性は面白そうに笑って眺める。


「わ、分かったからっ。か、買うから! だから許してくれ‼」

「うー、ありがと~! 大好き!」

「離れろ‼」


 思わず飛びついてきた女性を無理やりに剥がし、風太はようやくスーツをハンガーにかけた。


「まったく、付き合ってないんだからこういうのはやめてくれ、七海」


 女性の名前は七海遥ななみはるか。25歳の、無職である。


「遥って呼んでよ~」

「俺とお前はそういう関係じゃないんだ。俺のことも風太って呼ぶな」


 男の方は鈴村風太すずむらふうた。28歳男性にして、年収は2千万円を超えていた。

 というのも、彼は売れっ子中の売れっ子作家で、常に本を出せば10万部は売れてしまうような作家だからだ。


「まったく、一つ屋根の下で、ましてや同じベッドで寝てるっていうのに酷いなあ」


 そして彼らは半同棲のような真似をしていた。

 同じご飯を食べ、同じ布団に入り、同じ時間に起きる。「半」というのは風太たちは関係を持っていないからそう言っただけで、実際にはラブラブのカップルまがいのことをしていた。


「でもやっぱり引っ越しをしないのは、私のにおいを嗅ぎながら寝たいからなのかな?」

「な、そんなわけあるか‼ 俺は少しでも家族に仕送りをしなきゃならんからだ」


 風太がそれだけのお金を稼ぎながら七海と1Kで寝ているのは、家族への仕送りにお金を多く割きたいから。

 家族はきょうだいが10人居て、親の稼ぎとの兼ね合いから実質家計を支えていたのは風太だった。


「でも、私のわがまま通りにお金を使ってくれるのは、私の体を好きにするためだっけ」

「だ、誰がそんなことを言った‼」

「え、違うの?」

「違うわい! お前には窮屈な思いをさせているから、そのわびだ」


 七海の椅子の周りには30万円以上するパソコンや4万円のゲーミングモニターが3つ。

 椅子も2万円するやつで倒せるやつだし、ゲームもないものはない。


 そのうえ、七海には上限額が月に100万円のクレジットカードが七海名義で持たされているし、自由に使っていいと言われている。

 言ってしまえば、さっきねだった新しいモニターも本当は風太の許可なしに買うことができるのだ。


「窮屈な生活って…………前に比べたら、幸せすぎる生活をさせてもらってるけど……」


 だが、前の生活との差異があまりにも大きいから、七海は自由にお金を使ってもいいと言われても使用することができなかったのだ。


「何を言ってる。こんな狭い部屋に俺なんかと二人きりで過ごさせて、寝床もただのシングルベッドに俺と二人。俺がお前だったら死にたくなるような環境だ」

「でもその代わり、働かなくていいって言われてる。それだけで、風太には感謝してもしきれないよ」


 急に真顔になってお礼を言う七海。だが風太はそういう空気が好きではなかったので、皮肉を返すだけにする。


「まあ、狭くなっているのはお前が狭くしてるだけだけどな。つーか、もうモニターの設置場所とかねえだろ」

「いいの‼ それはAV見るようなの‼」

「言わなくていいわ‼ つーかAVと見んのかよお前‼」

「ちなみに風太が朝〇ちしてるときは、たまにズボン下ろして見てる」

「ばっ‼ お前ふざけんなよ⁉」

「結構大きいよね~」

「お前、絶対許さんからな‼」


 そう言ってカンカンに怒る風太だったが、決して「追い出すぞ」とは言わない。

 それがまた、七海にとっては嬉しくてしょうがなかった。


 これが、この二人の歪つな半同棲生活の日常だった。

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