カードコレクター

海乃 果(うみの はて)

第1話 カード

 東京に文京区という区がある。


 東京ドームがあり、なにより東京大学のある区だ。


 その文京区の一角に逢坂徳香おうさかのりかの働く会社のビルがある。


 ビルは23階建てのオフィス棟を中心にして、高層マンションやスーパー・飲食店なども同じ敷地内に配置されている。


 

 そのオフィスから徒歩でも30分圏内にあるアパート。


 スマートフォンのアラームの音がアパート内に鳴り響く。


 逢坂徳香は眠い目をしてアラームを止める。


 長い髪の毛をぼりぼりとかきながら時計を見る。


 もう7時30分だ、ここから準備をして始業5分前には着く。


 二度寝しそうになる自分を強引に叩き起こしながらそこらへんに掛けてある服を掴んで無雑作に着込む。


 1月の東京は朝の気温が0度近くなることもあり寒い。


 誰か養ってくれないのかな、三食昼寝つきとか、今どきそんなのないかなどと考えながら朝ごはんも食べずに会社に着く。


 オフィスの8階に逢坂の所属している部署がある。


 「おはようございます」


 そう言いながら自分のデスクに座る。


 朝は忙しい。


 徳香の部署は電力系のサービスを展開している。


 いわゆる、電力自由化の波に乗ってできた部門だ。


 一時期は勢いもあったが、電力会社間の競争も激しく、最近は縮小傾向だ。


 ただ、それに伴って徳香の仕事が減っているわけではなく、人員が削られた分仕事量が増え定時に帰れることはほとんどない。


 


 徳香は体の線が細く、髪は長くストレートにしている。


 身長は159㎝で男性には人気があるといっていい容姿だろう。


 現在25才、独身の彼女は他の同年代の女性と同じく結婚について考えずにはいられなかった。


 ただ、半年前に大きな失恋をしてあまり前向きに考えることができなくなっていた。



 愛とか、お金とか、将来のこととか、親の期待とか色々なものについて徳香なりに色々と考えていた。



 そして、徳香のたどり着いた答えが『カード化』だ。


 知り合いの男性(未婚に限る)の名前をスマートフォンのメモ帳にまず書き込む。


 その下にステータスを書き込んでいく。


 例えば同僚の鹿野かのという男性については、



 名前:鹿野彪かのたけし


 資金力:44


 ルックス:50


 優しさ:55


 私に対する愛情:62


 私からの愛情:55


 相性:57


 といった感じだ。


 もちろんこの数値は徳香が勝手につけたものであるので客観的に妥当な数値であるかは分からない。


 ただ、こうやってステータスを割り振ったカードをスマホのメモ帳に20人分蓄えてあって、どんな人が自分と将来を共にしてくれるのかなどと考えていた。


 


 「徳香」


 同僚の声に振り替える。


 「紗矢か」


 「紗矢か、じゃないわよ」


 「あ、ごめんごめん」


 「一緒にご飯行こうって言っていたじゃん」


 「そうだったっけ?」


 「そうです」



 2人で12階にある休憩室で食事を取る。


 見晴らしはいいのだがいつも混んでいるのが難点だ。


 2人で昼食を取りながら他愛もない話をする。


 話しながら、徳香はスマートフォンをいじり、なんとなく1人の男性のステータスをいじってみる、資金力を200にした。


 あれ、私何をしているんだろう。ステータスをいじりながら馬鹿なことをしているなと思った。



 それから一週間後、資金力のステータスを200にした男性が会社を辞めた。


 聞いた所によるとロト7で高額賞金が当たったとのことだ。


 え?まさか??


 偶然??


 ただ、徳香の想定した資金力は生涯年収のことで、200というのはロト7の高額賞金の額とぴたりと一致していた。



 まさか?このスマホに書き込めば?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る