バートン隊の日常風景(1)
訓練場の一角。
怒号と共に空に舞い上がる少年たちの姿を見て、候補生たちは目を細めていた。
「お、やってるやってる」
「もうそんな時期か……早いなぁ」
ここ数年、新しい候補生たちが入ってくる時期になると毎年見られる光景である。
我らが隊長に舐めた口を利いたひよっこたちが力の差を見せ付けられる恒例行事は、もはや西の訓練場の春の風物詩となっていた。
「俺たち最近あんまり怒られてないよな」
「相変わらずメニューは鬼だけど」
「普段は割と冗談通じるもんな、隊長」
誰からともなく、数年前の自分たちの姿に思いを馳せる。
血と汗と涙、青春の日々。
「…………」
「…………」
「俺さ。昔は教官たちがわざとミスして隊長を怒らせてんの、何でだろうなって思ってたけど」
「うん?」
「正直ちょっと、気持ち分かるなって」
一人がぽつりとこぼした瞬間、他の2人が顔を見合わせ、さっと距離を置いた。
「うわ」
「出たよ、マゾ発言」
「いやマゾじゃねーし」
「引くわ」
「友達やめよ」
「やめんなし」
引いていた2人のうち1人が、「まぁでも」と思いついたように言う。
「たまにこう、隊長に喝入れてほしいなって時はあるかな」
「だろ!?」
「無いわ。マジ無いわ」
形勢が逆転した。
残る非マゾ派の1人が他の2人から距離を置く。やれやれと肩を竦めてため息をついた。
「なんだよ、マトモなの俺だけかよ」
「いや、お前がおかしいまであるわ」
「それな」
「普通優しい教官がいいだろ、厳しいより」
他の2人は首を捻るばかりだった。
ついぞ「優しい教官」というものを見たことがないせいかもしれない。
「甘やかされたいわけよ、俺は。分かる? あーあ、誰か甘やかしてくんねーかな!」
「そこ! 何をくっちゃべっている!」
ばしーんという音が3つ響いた。
いつの間にやら後ろに立っていたバートン隊長が、竹刀で3人の頭を順番に叩いたのだ。
「私語厳禁! いつになったら蛆虫から候補生に進化するんだ、貴様らは!」
「も、申し訳ございません!」
「罰としてグランド10周!」
「サー! イエス! サー!」
脊髄反射で最敬礼し、3人はどたばたと走り出す。
そのうちの1人が肩を掴まれ引き留められる。
振り向くと、バートン隊長がにやりと口角を上げて笑っていた。
「そうそう、お前は甘やかされたいらしいな」
「ヒッ」
「特別大サービスで10周追加してやろう!」
「そ、そんなぁ!」
「つべこべ言うな! 足を動かせ!」
「さ、サー! イエス! サー!」
竹刀で尻を叩かれ、走り出す。
そんな彼らを羨ましげに眺めていた教官たちが加わり、連帯責任とどやされた他の候補生たちが加わり、何故か新入りの候補生も巻き込まれ――
「……私も走るか」
――手持ち無沙汰になった隊長本人までもが加わって、大所帯の走り込みが始まったのだった。
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