第46話 エリザベス・バートンでございます
年頃の女の子の適応能力というのはすさまじい。
今までは近寄りがたそうに遠目に見るだけだったご令嬢たちは、私が気さくに2人と話しているのを見て、徐々に、いや一気に話しかけてくるようになった。
最初の頃はあまりに人が集まりすぎて、アイザックがいくら睨んでも効かないほどだった。
教室に廊下に校門に、ところ構わず取り囲んでくるご令嬢に、私は選挙カーに乗った政治家張りにご機嫌で手を振り続けた。
こちらは、バートン、エリザベス・バートンでございます。
ご声援、ありがとうございます。
やがて私に迷惑をかけることを危惧したご令嬢たちがリーダーシップを取り、「バートン様親衛隊」なるものが作られた。
いわばファンクラブである。
ファンクラブ。
何と素晴らしい響きだろうか。
少女漫画等において、ファンクラブを作られるというのはメインキャラたる証である。
これはもはや、私の攻略対象入りは確定したようなものではないだろうか。シャンパンでも開けたい気分である。ダルマに目でも書いたら良いだろうか?
いつの間にかファンクラブの中で「仕切り」なるご令嬢が現れ、私への挨拶や昼休み・放課後にお話をする際のルール、ローテーションが決められたおかげで、クラスメイトやアイザックに迷惑を掛ける頻度は激減した。
予想よりも少々システマチックなきらいはあるが、私はこうして念願の「取り巻きの女子」を入手したのである。
ちなみに、アイザック兄1、2の婚約者のご令嬢たちはといえば、すっかり私にメロメロであった。
悪評を吹き込むまでもなく、彼女たちなりに自分の婚約者に対する不満が募っていたようで、私と自分の婚約者を比べるような愚痴をたくさん聞いた。
「バートン様はかわいいと言ってくださるのに」「婚約者がバートン様だったらよかったのに」と言った具合だ。
放っておいても婚約破棄しそうな気もしたが、アイザックから伝えられた彼らの悪事――もとい、武勇伝についても、ちらほらと話しておいた。
彼女たちがどうするかは分からないが、どうせ宰相の地位はアイザックが継ぐことになる。
破滅が目に見えている者と婚約させたままでいるより、今のうちにさっさと手を切っておくことを勧めるのがやさしさというものだろう。
アイザックには「性格が悪いな」と言われたので、「君の真似をしているだけだよ」と答えた。
彼は何とも苦々しい顔をしていたが、幼少期時点で私よりずっと悪知恵を働かせていた彼に言われる筋合いはないだろう。
そういうわけで、私はここ最近、非常に楽しい学園生活を満喫していた。
その日もウキウキで馬車の中で指立て伏せをこなしながら登校し、教室のドアを軽やかに開けた。
「……アイザック?」
いつものように席に向かったところで、いつもと様子の違う隣人の姿を見つけ、思わず挨拶より先に声をかけてしまった。
アイザックはセンター分けの前髪にパツンとしたおかっぱだったのだが、今日の彼の前髪は自然に流されているし、毛先は適度に梳かれていてまったくパツンとしていない。
長さも私よりは少し長いがだいぶすっきりとしていて、かなり印象が違う。入社2年目の営業マンといった雰囲気だ。
ていうか誰だお前。アイデンティティが眼鏡しか残っていない。
「君、どうしたんだ? ちょっと見ないうちにずいぶん男が上がったじゃないか」
茶化して笑いかけると、彼は一瞬言葉に詰まったものの、咳払いをして澄ました顔で答えた。
「まぁ、なんだ。願掛けだ」
「願掛け? それはまた、非科学的だな」
ずいぶんと彼らしくないことを言う。もしかして本当に別人なのだろうか。
というか願掛けなら普通は逆じゃないのだろうか。願いが叶うまで伸ばすというのがよく聞く話だと思うのだが。
いつかの彼の言葉を借りてまた茶化してみれば、彼もまた、私の言葉を真似して返した。
「僕が勝手に信じているだけだ。いいだろう?」
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