第2章 学園編1年目
第33話 王立第一学園、入学!
制服を身に付けて、姿見の前に立つ。
いつもの騎士団の制服ではない。私が今日から通う、王立第一学園の制服だ。
制服を仕立てるときに、お母様が私が悪さをしないように――まぁ、男子用の制服を作らせると思われたのだろう。その予想は当たっている――見張りについていたが、ほんの少しの隙をついて仕立て屋を誑かした。詳細は、割愛する。
結果として出来上がったのが「何故か」男子学生用の制服だっただけで、私は悪くない。もちろんお母様も悪くない。
落ち込むお母様にそう告げると、どうやら諦めてもらえたらしかった。
自分でも見慣れないが、黒を基調にしたこの制服も悪くない。いや、騎士団の制服の方が盛れているとは思うのだが。
やはり、人気の職業の制服というのは、学生の制服とは一線を画した良さがある。
とはいえ、学生の制服にも、他の衣服にはない良さがあるのも事実である。
襟のところだけが赤色だったり、縁取りが金だったりとディティールが凝っている。乙女ゲームの制服らしさ満点だ。
洗濯のことやアイロンがけのことは度外視されている。
ネクタイは締めた方がよいか、締めない方が遊び人ぽくてよいかしばらく悩んだが、ネクタイをクイッとやるのが好きな女子の需要を鑑み、ボタンを開けて通常より少し緩めに締めるという案を採用した。
少しでも足が長く見えるよう、シャツはインする。足元はもちろん、シークレットソールを仕込んだ革靴だ。
素の身長は170センチを超えたところで伸び悩んでいるが、靴を含めると180センチを余裕で超える。
180を超えると、やはり周囲の視線も違う気がして、とても良い。何が良いかと言えば、気分がいい。私の。
動きにくいのでベストはやめたが、どうだろう。そのあたりは今後の課題としたい。
「リジー」
朝食の席に向かおうと部屋を出たところで、お兄様が待っていた。
「入学おめでとう」
「お兄様。入ってきてくださればよかったのに」
「ふふ。いいんだ。僕が一番に言いたかっただけだから」
お兄様が少し照れくさそうに笑う。その瞳は少しうるんでいるように感じた。
お兄様は、悲しいときも、怒ったときも、嬉しいときも、泣いてしまうタイプだということを、私は知っている。
「無事入学できて良かった。試験勉強を頑張った甲斐があったね」
「お兄様とクリストファーのおかげです」
私は苦笑いする。本来、学園の入学試験はたいして難しいものではない。身分の高い者はそれ相応の学校に通えるよう、よほどのことがなければ合格できる。
ほんの足切り程度のもので、苦戦するようなものではない。
家庭教師との勉強をそれなりに頑張っていて……つい、男側の礼儀作法を披露してしまったり、ダンスで男側を踊ってしまったりしなければ。
お父様いわく、長いバートン公爵家の歴史の中で第一学園の試験に落ちた者はいなかったそうで、あわや第一号として歴史に名を刻んでしまうところだった。
これだけ自由を許してもらっておいて、それはさすがに申し訳が立たない。
そこで猛特訓に付き合ってくれたのが、お兄様とクリストファーである。ついでに勉強のほうもかなり手伝ってもらった。
おかげで女性側の作法もばっちりだ。お兄様にも義弟にも、本当に頭が上がらない。
「制服、似合っているよ」
「ありがとうございます」
お兄様は、ふくふくのお顔で幸せそうに微笑んだ。
お兄様のその言葉で、私は自信を持てる。背筋を伸ばして、前を見据えられる。
長いコンパスで大きな一歩を踏み出せる。口元に、余裕の笑みを浮かべられる。
さぁ、行こう。
ゲームの舞台である、王立第一学園。
イケメン攻略対象どもの伏魔殿へ、殴り込みである。
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