第17話 何だか運動部みたいだなぁ

 やる気を出すとは言ったものの、私にできることなど特にない。

 教官たちにも言ったが、私が試合に出るわけではないのだ。


 いや、令息たちに混ざってこっそり出場する手もあるにはあったが、御前試合には国王陛下の他、息子を訓練場に通わせている貴族や、騎士たち、訓練場のOB等数多くの貴族が集まる。

 お父様も来るかもしれないし、本人が来なくとも交流のある貴族が見に来ている可能性は十分にある。

 令息を千切っては投げ千切っては投げしているところをお父様に見つかるのは、あまり得策ではないように思えた。


 私にできたことは、せいぜいいつものメニューに追加して、10回か20回トレーニングを増やしてやるくらいだった。


 私よりも、他の教官たちの方が大いに働いた。

 これまで筋トレや基礎的なことに重点を置いていたところ、試合形式の練習も取り入れだしたのだ。


 トレーニングの時は喜々として候補生と一緒にトレーニングをさせられる側に回っていた教官たちだが、令息を相手に立ち回りを実践して見せる姿などは非常に様になっていて、教官らしかった。


 グリード教官によると、私が来る前はこういった実戦や試合形式での練習が多かったらしい。

 なるほど、令息たちからしてみれば基礎練習などより見栄えがする実戦形式の練習の方が楽しかろうし、基礎がきちんとある者は強くなっただろう。

 教官たちも自分の身体を動かすほうが好きなようだし、文句を言われず楽だったのかもしれない。


 実戦形式の練習が悪いというわけではない。

 それでしか身につかないことがあるというのは、ここ半年グリード教官たちに稽古をつけてもらった私が一番、身を持って理解している。


 しかし、基礎も同じくらいに大切だ。基礎がなっていない状態で行う実戦と、基礎を固めた後で行う実戦では、やはり伸び幅が違う。

 どんどん上達していく候補生たちも、それを相手する教官たちも、どこか楽しげで、生き生きとしていた。良いことだ。


 私は実戦に関してはまだ教わる側である。そういった訓練をしている間は、ぷらぷらと候補生たちの動きを眺めて回った。

 候補生同士で立ち合いをしているときには、姿勢くらいなら見てやれるかと思い、竹刀を手に指導を加えた。


 それを見たグリード教官が、何やら分かりやすいミスをして候補生に打ち込まれていた。

 チラチラとこちらを見ている。何だそれは。何のアピールだ。他の教官たちも同様である。


 正直マゾか?と思うのだが、以前うっかり候補生に対する勢いのまま「貴様はマゾヒストか!?」と言った時に「サー! イエス! サー!」と返事されて以来、怖くて聞けないでいる。

 一生聞かずに済ませたいと思う。


 というわけで、実際の御前試合のための練習はほぼ他の教官に任せっきりだったのだが、候補生たちも教官たちもことあるごとに「バートン隊に勝利を!」とか「バートン隊の名に恥じぬ戦いを!」とか勝手に私を旗印にして、声を掛け合っていた。

 勝手に隊を作らないでもらいたい。


 御前試合というわかりやすい目標もあってか、訓練場は候補生・教官問わずかつてないほどに団結し、熱く盛り上がっていた。

 何だか運動部みたいだなぁと思う。それでいくなら、私はコーチか監督だろうか。


 今からでも呼び方を「コーチ」に変えてもらえないかと試行錯誤しているうちに、御前試合の日はどんどんと迫って来るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る