9歳、幼なじみ全員集合!(後編)

全員の自己紹介も終わり、 みんなが自由に会話を楽しみ始めた。


私とエレは初めて参加するお茶会という事もあり、お父様とお母様は何かと気に掛けてくれている。

まぁ、正確には、私は“記憶喪失”になってから初めて参加するお茶会だけど……。


気に掛けてくれるのは嬉しいけど、2人にはとっては久しぶりのお茶会だから、ゆっくり楽しんでほしいなぁ。


「お父様! お母様! 私とエレの事は気にせず、楽しんでください!」


2人は私の気持ちを察してくれたのか「ありがとう」と微笑み、サール国王たちがいる輪の中に加わっていった。


主要キャラ達(子供達)はというと、セレスが少し離れた場所に“スイーツビュッフェ”を用意していると言い、みんなで移動を始めている。


別な場所に“スイーツビュッフェ”って……。

どれだけ広い庭なんだろう……。


私も移動を始めていると、横にいたエレがいつもする“お願い”の目をしてきた。


「手をつないでもいい?」


……なんて可愛いお願いなんだろ。

私は「もちろん」と手を差し出し、エレと手をつないだ。


こんなに大勢の人と会うのは初めてだから、緊張しているのかな?


お父様がお茶会に参加する事を決めた理由の一つに、エレの事もあるんだろうな。


去年までエレは人のオーラを見ないために、ずっと気を張っていなくちゃいけなかった。

だからどこかに出掛ける度、相当疲れているようだった。

それもあり、極力大勢の人がいる場所や外出は控えてたけど……。


徐々に魔法を制御できるようになり、今では「意識せずにオーラを見ないですむ」って話してたから……本当に優秀な弟!!

何より知らなくてもいい、人の汚い部分を見なくてすむのなら、それに越した事はない。

人間不信になりそうだし……。


……ん?

歩いていると何か見えてきた。


お、お店!? と勘違いしそうなくらい沢山のスイーツ!!

チョコレートファウンテンまである。


「今日のために我が家のシェフが用意してくださったのよ。みんな、遠慮しないで食べてね」


さすがセレス!!

本人は普通に言ってるつもりなんだろうけど、ドヤ顔なのが可愛いな(笑)


「今日は我が家でお茶会をするというお話だったので、私が作ったクッキーも用意させていただいたわ」


セレスは手作りクッキーを自信ありげに差し出した。


ついに披露する時がやってきたー!


セレスが遊びに来る度、大量に持ってきたクッキー。

私はもう十二分に味は知っているし、なんなら一時期、食べ飽きるまで食べたけど……。

セレスが頑張っていたのを知っているから、他の人(特にオーン)に喜んでもらえるといいな。


真っ先にエウロがクッキーに反応した。


「へぇ、セレスもお菓子作れるんだ。すごいな!」


マイヤも「さすが、セレスちゃん。何でも出来るんだね」と感心している様子。

そして、きました! 大本命!!


オーンがクッキーを手に取り、セレスにお礼を伝えた。


「セレスありがとう。早速いただこうか」


みんなでセレスの作ったクッキーを口に入れた。


「美味しい!!」


オーンとエウロ、マイヤ、私の声がはもった。

カウイは「美味しい!!」という声にうなずいている。

ルナとエレは無言のまま食べている。

ミネルはいまだに不機嫌なままなんだけど……こういう顔立ちなのかな?


チラッとセレスに目をやると、満足げな顔をしている。

頑張ったかいがあったね、セレス。


しばらくすると、マイヤが申し訳なさそうな表情をしてセレスに近づいた。


「セレスちゃんのお家にお邪魔するから、マドレーヌを作ってきたの。良かったらセレスちゃん食べてね」


おおっと、マイヤもお菓子を作ってきたのね。


美味しそうなマドレーヌ。

きっとセレスだけじゃなく、みんなの分も作ってきたんだろうな。

でもセレスがお菓子を作ってきたから、気を使ってセレスに渡したのかな?

気配りができるマイヤってステキな女の子だなぁ。


セレスはマドレーヌを受け取り、何か考えている様子。どうしたんだろう?


「……あら、ありがとう。折角なら、皆さんでいただきましょう」


──!!


セレス、えらい!!

内心複雑な心境だろうけど「みんなで食べよう」って、よく言えたね!

成長した我が子を見ている気分。(実際は、私の方がセレスに面倒を見てもらってるけど……)


またまたエウロが真っ先に反応した。


「さすがマイヤ! 気が利くな。こっちも美味しそうだ」


エウロは思った事をそのまま言ってるだけかもしれないけど、人を褒めるのが上手だな。

さすが“さわやかイケメン”。


オーンといえば、一瞬だけ人が気づくか気づかないかくらいの驚いた表情を見せた。


「マイヤありがとう。いただきます。うん、美味しいね」


マイヤの作ったマドレーヌに満足してるみたいだ。

さっきの驚いた顔は見間違いかな?


私はセレスが配っていたマドレーヌを受け取り、マイヤにお礼を言った。


「マイヤありがとう。ビュッフェが食べれなくなるかもしれないから、お家に帰ってじっくり味わって食べさせてもらうね」


あれ? マイヤ、驚いてる?

いきなり私が話し掛けたから、驚いたのかな??

少しだけ間があいた後、「お口に合うか分からないけど……」とにっこり笑ってくれた。


「私もそうする」


……ん?

今しゃべったのはルナだよね!?

無表情ではあるけど、しゃべった!


ルナの言葉にカウイも頷いている。

カウイはずっと頷いてるな。その姿が可愛らしくも見えてきた。


結局マドレーヌを食べたのは、エウロとオーン、セレスだった。

エウロとオーンは、マドレーヌを美味しそうに食べていた。

セレスはというと「美味しいわね」と言った後、何かを決意した表情になった。


これは……次からマドレーヌを大量に食べる事になるかもしれない。



しばらくの間“スイーツビュッフェ”を楽しんでいると、マイヤが私の元へやってきた。


「アリアちゃん。魔法の勉強を頑張ってるって聞いたけど、使えるようになった?」

「いやー、それが全然。使える気配もないんだよね。マイヤは?」


セレスに慣れてしまったせいか、勝手にマイヤを呼び捨てにしてしまったけど、“さん”とか“ちゃん”とか、つけるべきだったかな?


「うふふ、呼び捨てしてくれて嬉しい。みんなと比べると大したことないけど、使えようになったよ」


「呼び捨てしてくれて嬉しい」だなんて、マイヤはかわいい上に優しい。

……というか、“みんなと比べると”って言った?


「みんな魔法が使えるの!?」


私が驚いてみんなに聞くと、カウイが首を横に振った。

エウロがカウイの代わりに答えた。


「カウイはまだ魔法は使えないんだ。後はみんな……使えるか。みんなの場合、他の人より使えるようになったのが早いから焦る必要はないさ」


エウロの言葉にオーンも同意している。


「そうだね。学校に上がるくらいから、徐々に魔法を使える人が増えてくるかな。大体の人が学校に通っている内に使えるようになるみたいだよ」


エウロとオーンの説明にカウイがうなずいた。


……カウイは内気なのかな?

さっきから首だけしか反応していない……。

エウロとオーンのフォローよりもカウイの方が気になってしまった。


「魔法といえば……」


ずっと不機嫌だったミネルがエレを見た。


「《闇の魔法》を使うと聞いたけど、本当?」


エレの表情が少しだけこわばったが、黙ってうなずいた。


「人の心を操ったり、心を読んだりする魔法。《闇の魔法》って親の遺伝とか関係ない、“そういう魔法の素質”がある人しか選ばないという話だからね。実際、過去に《闇の魔法》が使えた人は、全員が悪い事にしか使っていなかったみたいだし。そんな人間的に終わっている奴が、この場にいるのが不愉快だ。今回に限らず、今後も参加しないでほしい。目を合わせるのも気分が悪い」


──!!!

気がついたら私は怒りで体が震え、考えるよりも先にミネルを“パー”ではなく“グー”で思いっきり殴っていた。


「エレの事を何も知らない人がエレの事を悪く言わないで! 過去の話だけで人を決めつけるなんて、そっちの方が人として終わっているわ! そもそも《闇の魔法》の知識も微妙に間違えてるし。そんな中途半端な知識で人を…………私の大切な弟を非難するなんて、間違ってる。もう一度、勉強し直しなさい!!」


ミネルを殴り叱りつけた後、ふと我に返るとエレは私に抱きついている。


「僕はアリアが分かってくれてるって知ってるから、大丈夫だよ。ありがとう」


……エレ。

ゆっくりと周りを見渡すと、ミネルは倒れこみ、みんなは茫然としている。


──やってしまった!


ミネルから言われた事はもちろん許せないけど、言われた事に対して言葉で反論せず、暴力を振るってしまった。

理由は何にせよ、暴力で返すなんて……。

なんて事をしてしまったんだろう。


うわぁ!! まずはミネルに謝罪をしなきゃ。


「殴ってしまってごめんなさい。どんなにあなたが最低な事を言ったとしても、暴力を振るった事は間違いでした。本当にごめんなさい!」


深々と頭を下げ謝ると、茫然としていたみんなも我に返ったようだった。

セレスが「ふふふ」と豪快に笑い出した。


「《知恵の魔法》を使うミネルに向かって“勉強し直せ”って……あぁ、おかしい。確かにそうね。勉強のしすぎで頭が固くなってるんじゃない? ミネル」


ミネルがオーンの手を借り、起き上がりながら「なっ」とセレスを睨みつけた。


騒ぎが気になったのか、メイドさんの誰かが知らせたのか、お父様たちがやってきた。

起き上がっているミネルの姿を見て、ミネルのお父さんであるティスさんが焦っている。


「な、何があったんですか?」

「アリアに殴られました」


──ミネル!!

確かにその通りだけど、殴られた経緯を話さないとは……なんて性格!!

お父様とお母様の顔をチラッと見ると、ミネルの言葉を聞いて驚いている。


あぁ、ごめんなさい! 確かに殴りました。


その時──意外にもずっと話していなかったカウイが小さい声で話し始めた。


「あ、で、でも、エレくんが悪く言われて……」


カウイの言葉を聞き、オーンも一部始終を説明してくれた。


その場は言ったミネルも悪いし、暴力を振るった私も悪いという事で、お互いに謝る形で落ち着いた。

言われた通り暴力は良くない事なので、私はもう一度ミネルに謝罪した。


……ミネルは納得してなさそう。

親に言われたから仕方がなく謝ったという態度だった。


私はセレスにお茶会に水を差してしまった事を謝罪した。

セレスは「気にする必要ないわ。エレは小生意気ではあるけど、アリアの言った通りだと思ったもの。正直、スッキリしたわ」とこっそり言ってくれた。


セレスの優しさに泣きそう……ありがとう、セレス。


このままお茶会にいても気まずいままだろうという事で、私たち家族は一足早く帰る事にした。

久しぶりの集まりだったのに……。


ごめんなさい! お父様、お母様。




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家に帰ってから、お父様に暴力を振るった事はガッツリ怒られた。

こんなに怒られた事は初めてだったけど、お父様の言ってる事は正しい。


私って怒ると先に手が出るタイプだったのかな?

……だとしたら、今後気をつけないと。


お父様は怒った後、弟を守った事を褒めてくれ「アリアの考え方自体は間違っていないと思うよ」と優しい言葉を掛けてくれた。


「間違っていない」と言われた瞬間、なぜか涙が出てきた。


本当は言われたエレが一番つらいはずだ……。

エレは《闇の魔法》を制御できるように毎日、毎日ものすごく頑張っている。

自分で望んで《闇の魔法》が使えるようになったわけでもないのに……。


なんでこんなに涙が出るんだろう?

ミネルみたいにエレの事を悪く思う人がいるという事を目の当たりにしたから悲しいのかな?


……いや、違う。

ちゃんとエレの事を伝える前にミネルを殴ってしまったから……。

分かってもらえるチャンスを私自身でつぶしてしまったのが……悔しいんだ。


お父様は私をそっと抱き寄せ、思う存分泣かせてくれた。

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