Bitty Geeky Birdies!【フリー台本】

江山菰

第1話 ホット・ポット・ホーリーナイト

*登場人物2名(どちらも20代男性、同僚どうし)

  鳥辺とりべ:人懐こく善良、快活

  斎賀さいが:鳥辺より少し年上 


*以下本文



   SE:雑踏の喧騒と街に流れるクリスマスソングを終劇まで小さく流す。

   SE:革靴の足音がふと立ち止まる


鳥辺「あれ、斎賀さん? 直帰じゃなかったんですか? もうオフィス誰もいませんよ」


斎賀「あれ……みんな残業してるだろうから差し入れに、クリスマスケーキ、駅前で買ってきたんだけど」


鳥辺「今日はイブですよ? みんな帰りましたよ。ケーキだって、みんな家族とか恋人と食べるでしょうし」


斎賀「そうか……そうだよなあ」


鳥辺「そういえば好きな人がいるって前言ってたじゃないですか。その人と食べたらどうですか?」


斎賀「……脈がなさすぎて社会死状態なんだよ」


鳥辺「(笑って)社会死ですか……あー、僕もクリぼっちですし、うちで鍋やりません? ケーキも一人で食べるより、いいでしょう?」


斎賀「じゃあ、この書類だけデスクに置いてくるからここで待っててもらっていいかな」


鳥辺「あ、ケーキ持っときましょうか」


斎賀「ああ、急いで行ってくる」


  SE:革靴で駆け出す音、間をおいて、革靴で駆け寄る音


鳥辺「お帰りなさい。めちゃくちゃ早かったですね」


斎賀「(息を切らせて)鳥辺くん、薄情だからケーキ持ち逃げして帰りそうだし」


鳥辺「待ってますってー」


斎賀「オフィスの窓から見えたんだけど、君、今ナンパしてなかった? 髪の長い二人連れ」


鳥辺「してました。あわよくば斎賀さんの分も、と思って」


斎賀「余計なお世話だよ」


鳥辺「だってクリスマスって人肌恋しくなりません? 野郎だけで鍋囲むよりいいでしょう?」


斎賀「懲りないねえ……最近も変な女ナンパして貢いで捨てられてなかったっけ?」


鳥辺「なんで知ってるんですか?」


斎賀「社内でのもっぱらの噂だよ。目、真っ赤に腫らしてたし。自重した方がいいよ」


鳥辺「いやー、恥ずかしいな、あはは。(ひとしきり笑って、きりっと)あ、でもご心配なく!僕は鳥頭とりあたまなんで一週間くらいで忘れてしまいますから」


斎賀「ほら、やっぱり薄情じゃないか」


鳥辺「鳥頭と薄情は違いますって。あ、スーパー寄っていいですか? 今うちにあるの、白菜とねぎだけなんで、鮟鱇あんこう買いましょう、鮟鱇! そうだ、焼酎も買おっかな」

 

 斎賀「(間をおいてからため息)はあ……」


鳥辺「どうしました? 魚より肉の方がいいですか? 斎賀さん、疲れた顔してますよ? しっかり食べて、飲んで、脈無しでいいんで恋バナも聞かせてくださいよ! 相談にのりますよ?」


斎賀「(ため息)……俺はいいよ。俺はあんまり喋らない方がいいんだ」


鳥辺「え? どうしてですか?」


斎賀「それより、今夜は君の声が聞きたい。たわいもないことでいいから、俺に話しかける君の声を、ずっと聞いていたいんだ」


  SE:町の雑踏とクリスマスソングが徐々にボリュームアップした後、ゆっくりフェイドアウト


――終劇。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る