ドラゴンのウロコでサウナを作ろう。
シズクちゃんが、目をグルグルさせながら立ち上がった。
「あああああ、あなたって人はぁ!」
「落ち着いてシズクちゃん!」
「これが落ち着いてなんていられますか!? あなたは、私という人がありながら!」
「いいから聞いて、このサウナを作るんだ!」
ボクの見立てだと、リムさんの衣装は、おそらくウロコだ。
レッドドラゴンの。だったら、相当の熱を持っているに違いない。
「このウロコに水を掛けて、サウナを作り出す」
「温泉じゃなくって?」
そう。温泉は作れそうにない。ならばサウナと冷水のセットを作れば。
下着はさすがに借りられないけど、ニーソくらいなら。履くのも脱ぐのも楽だろうし。
「それならそうと言ってくれたらいいのに!」
言おうとしたら誤解したんじゃん!
「サウナなる設備が何かよくわからんが、協力はしよう」
リムさんが、立ち上がった。丸太イスに足をかけて、ニーソックスをゆっくりと脱ぐ。
シズクちゃんもキレイだけど、リムさんのスラッとした足も見事だ。
女性的というより、生物的に見て美しいのである。
彼女が厳密に言って爬虫類だから、そう見えるのかもしれない。
「ほれ。これを使うがよい」
リムさんが、脱ぎたてのニーソックスを見せる。
「ありがとうございます」
側に近づくと、ほのかに生暖かい。もっと熱いと思っていたけれど。
「匂いを嗅いじゃダメですよ」
「するかよそんなこと」
今日のボクは、全然シズクちゃんに信用されないなあ。
「どこか、玄室はありませんか? そこをサウナルームにします。できれば密閉度が高く、水場が近い方がいいですね」
「いい場所があるぞ、ついて参れ」
リムさんと共に、サウナに使えそうな場所を探す。
「すまぬのう。我も従者も、行水で済ませてしまうのでな」
聞いてみると、川の廊下は彼女たちの浴場だったらしい。
嫁入り前の女子たちが、素っ裸で露天の水風呂かー。
水浴びの時は、トカゲの姿だろうけれど。
「おっしゃるとおり、ドラゴン族のねぐらに温泉はムリですよね」
トカゲは、温度変化に弱い変温動物だ。
レッドドラゴンのリムさんなら、多少の温度変化には耐えられるだろう。
しかし、従者のドレイクさんはどうかわからない。
ずっと蒸気に晒されるのだ。あまりいい環境ではないはず。管理も難しい。
「ご期待に添えぬ場所で、申し訳ない」
「いえいえ、とんでもない」
回復の泉作りの目処は立ったのだ。
流水の貯蔵庫を作って、水風呂で認定してもらおうかとも考えた。
そんな味気ないマネなどできない。
「そのサウナとやらを作れれば、お主の願望は叶うと?」
「はい」
サウナだって、立派な温泉施設だ。毒などのデトックス効果も期待できる。
「カズユキさんっ、なんか鼻の下伸ばしてません?」
ジト目で、シズクちゃんから睨まれた。
「え、そうかな?」
ボクは、サウナが楽しみで眺めていただけなんだけれど。
「リム様を見ている顔が、ちょっとエッチでした」
「人型ドラゴンが、珍しかっただけだって」
やましい考えなんて、ボクはまったく持っていない。
「ホントですかぁ? めっちゃグラマーじゃないですか、リム様。服装もセンシティブですし」
「シズクちゃんが、それ言う?」
「言いますよ。グラマラス枠は、私だけだと思っていましたから」
自分の腕で、シズクちゃんが胸を持ち上げる。
「ボクのパートナーは、シズクちゃんだよ」
「それ、信用していいので?」
「シズクちゃんがボクをキライにならない限りは。シズクちゃんがイヤな気分にならないように、ボクだって配慮するよ」
「は、はい。いつもありがとうございます」
なぜか、シズクちゃんが黙り込む。
不快な思いをさせているのかなぁ。
シズクちゃんの顔ははにかんでいるけれど。
リムさんが選んだ所は、廊下すぐ脇にある玄室だ。キッチンやトレイにも近い。
「旧兵舎らしい。丈夫じゃぞ。今は使っておらぬ」
外を休憩場にしていたのか、水飲み場があった。
ボクは、置いてあったバケツに水を汲む。
「ここなら、水場には困りませんね」
石組みのテーブルが、中央にドンと置かれている。
ここで、作戦などを立てていたのかも。
「じゃあ、行きます。ニーソをそのテーブルに広げてください」
リムさんの手で、ニーソックスを石テーブルの上に敷いてもらう。
「あとはドアを閉めて、水を掛ければ」
ニーソに水をチョロチョロと浴びせた。
モクモクと、蒸気が発生し始める。
「ほほう。蒸し風呂かえ?」
「ボクのいた世界では、ロウリュっていいます」
いわゆるミストサウナの一種だ。
「もうちょっと蒸気で満たされたら、サウナのできあがりです」
「そんな簡単に、できあがるのかえ?」
リムさんが、驚いている。
「湯に入る習慣のない種族でな。何もかも珍しいのじゃ」
温泉文化がないと、ボクのしていることは魔法に映るみたい。
「レポートに移ろうか。シズクちゃん」
ボクが撮影のセッティングを始めようとしたときだった。
「む?」
天井を見上げ、リムさんの動きが止まる。
「あれ、どうなさいました?」
「侵入者じゃ。誰かが我にケンカを売りに来たらしい」
大変じゃないか。それにしては呑気だな。
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